3月7日、国家基本問題研究所とインドのシンクタンクであるヴィヴェカナンダ国際財団との定期意見交換会が東京・永田町の国基研で行われた。日本側は日米印豪の4カ国協力に関して発表したが、インド側は中国の「一帯一路」に関する発表を行い、彼らがこの構想に相当な警戒感を抱いていることがあらためて明らかになった。
筆者は5日の「今週の直言」欄で、中国の「一帯一路」は、実は「六帯三路」であることを指摘した。インドが問題視しているのは西や北に向かっている帯よりもむしろ、南に向かっている三帯、即ちインドシナ回廊、パキスタンのグアダル港に至る回廊、そしてミャンマー~バングラデシュ・インドの回廊である。特にパキスタン回廊は、インドとパキスタンが争っているカシミールを通過している。
●期待高まる日本の役割
昨年夏、中国は、ヒマラヤ山脈東部のドクラム高地に道路建設を口実に人民解放軍を進駐させた。この時、日米印は事前に計画されていた共同海軍演習をインド洋で行い、米印は空母を、日本もヘリコプター搭載護衛艦「いずも」を展開させた。その際、中国の共産党機関紙、人民日報は、インドに「日米に傾斜するな、失うぞ(Don’t bank on US and Japan, you’ll lose)」と脅しをかけた。
これに対して、平松賢司駐印大使は、インドと中国のドクラム高地の国境における緊張について警告を発し、中国の力による現状変更を非難した。インド北東部についてインド政府は中国やパキスタン人が入ることを許可しておらず、唯一日本がインフラ開発を行っている。これにより出来上がる交通網でインド軍の北東部展開も容易になってくる。こうした日本の貢献が、日米印豪の4カ国協力に役立つものと思われる。
●進む「米の退潮と中国の進出」
会議の席上、インド側からは「あたかもインド・太平洋地域で米国が退潮し、中国が進出しているかのように吹聴するのは、中国のプロパガンダだ」とする発言があった。
しかし、中国は1978年まで米軍が射爆場に使っていた沖縄の尖閣諸島周辺に公船を繰り出し領海侵犯を繰り返している。南シナ海にあるスカボロー礁も1980年代まで米軍が射爆場として使用していたが、現在は中国が実効支配している。
中国が大洋州・南太平洋に向かう海路の玄関口にベンハム海嶺(ベンハム・ライズ=Benham Rise)がある。ルソン島東方に位置し、ベンハムは米海軍将官の名前からとられた。
ところが、フィリピン政府は能力・船不足を理由に、同海嶺周辺が自国の排他的経済水域にあるにもかかわらず、中国が許可なく環境調査を行っていることを黙認している。インド・太平洋地域における米国の退潮と中国の進出は、プロパガンダどころか、事実として進行しつつある。