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太田文雄

【第500回・特別版】実は「六帯三路」の中国経済圏構想

太田文雄 / 2018.03.05 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 1日のBSフジの中国軍近代化に関する番組に、陸海空3自衛隊の元将官1人ずつが登場した。陸上自衛隊の元将官がBSフジの用意した中国の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の地図を補完して、陸路の「一帯」には①モンゴル~ロシア②中央アジア~西アジア③新ユーラシア・ランドブリッジ(横断鉄道)④インドシナ半島回廊⑤パキスタンのグアダル港に至る経済回廊⑥ミャンマー~バングラデシュ・インド回廊―の6ルートがあり、実態は「一帯」でなく「六帯」だと説明したことは適切であった。
 しかし海路に関しては、図示されたインド洋からアフリカ、地中海に至るルート以外に、日本の国益上最も重視しなければならない大洋州や南太平洋に至る(場合によっては南米まで延びる)ルートと、北極海を経由して欧州に至るルートがあることに誰も言及しなかったのは残念であった。

 ●北極海路の脆弱性
 地球温暖化の影響により、中国から北極海を経て欧州に至る海路が生まれた。中国は北極海に面していないのにもかかわらず、砕氷船「雪龍」を1999年以降6回北極海に展開した。さらに8000トン級の砕氷船を建造したことや昨年に中国海警局の船が対馬、津軽両海峡で領海に侵入したことなどは、この北極海路を背景に考察すれば、その戦略的意味合いを理解できる。
 大洋州や南太平洋に至る海路は、日本の南西諸島から台湾、フィリピンに至る第一列島線と交差する。中国が南シナ海の人工島を軍事化して、日本の海上交通路をコントロールしてしまえば、日本は迂回ルートを作らなければならない。それと同様に、日本が対馬、津軽、宗谷の3海峡や南西諸島をコントロールすれば、中国の北極海路は迂回しなければならない。つまり、脆弱性が日中両国に生ずる。

 ●中国との協調は成立しない
 2011年に米国防大学が「大国の逆説:脆弱性の時代における米中の戦略的拘束」(The Paradox of Power: Sino-American Strategic Restraint in an Age of Vulnerability)という本を出版した。一言にまとめれば「米中両国とも核、宇宙、サイバー空間で互いに戦略的脆弱性があるので共に協調していこう」 という内容である。しかし、同書が出版されてから既に7年を経過しているが、中国が米国と協調する兆候はなく、むしろ力ずくで米国の脆弱性を攻撃する能力を高め、自国の脆弱性を低める方向に向かっているように思われる。「六帯」のうち④から⑥の3陸路は、狭いマラッカ海峡を通過しなければならない脆弱性を克服するためと捉えることもできる。
 「一帯一路」は経済だけでなく政治と軍事が一体となって中国の影響力を拡大しようとするものであることは、インド洋から地中海への海路を保全するためアフリカ北東部のジブチに軍事基地を構築したことや⑥の陸路建設のために昨年ヒマラヤ山脈東部のドクラム高地でインドと対立しことなどからも明らかである。日本をはじめとする諸外国と協調しようとする意図は中国にまずないであろう。(了)