公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

名越健郎の記事一覧

北朝鮮の金正恩総書記がロシア極東を訪れてプーチン大統領と会談し、軍事協力の強化で合意したことで、露朝の連携が今後、東アジアに脅威をもたらすのは間違いない。やや距離を置く中国が露朝に同調し、「三国枢軸」を築くかどうかが焦点になる。 露は大量破壊兵器技術供与に慎重 筆者らが最近オンラインで会見したロシア人の朝鮮問題専門家は、ロシア軍がウクライナ戦争の兵力不足を補うため、北朝鮮軍を義勇軍とし...

続きを読む

国基研企画委員・拓殖大学特任教授 名越健郎    ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の指導者がプーチン政権に反旗を翻した「プリゴジンの乱」は24時間で収束したものの、前代未聞の反乱事件はプーチン体制の弱さを露呈し、政権を揺さぶった。来年3月のロシア大統領選を控えて内政が動揺する可能性があり、日本外交はプーチン体制の終焉やウクライナ戦争の終結も視野に、北方領土問題の解決に向けあらゆる...

続きを読む

ロシアのプーチン大統領がこのところ、核兵器使用に安易に言及するのが気になる。2月19日には、最高司令官として核ミサイル部隊による弾道ミサイル発射演習を自ら指揮した。ウクライナ危機が高まる中での核の恫喝は不気味で、国連安保理常任理事国としての責任と自覚が問われよう。 クリミア奪還には核使用も プーチン大統領は2月7日、訪露したマクロン仏大統領との共同会見で、「ウクライナが北大西洋条約機構...

続きを読む

安倍晋三首相とプーチン・ロシア大統領の平和条約交渉が失敗に終わった後、北方領土問題はすっかり後退し、プーチン体制下での決着は困難になりつつある。岸田文雄首相にとって、対露外交は「敗戦処理」であり、重視しないだろう。この機会に対露戦略の再構築を図るべきだ。 不可解な安倍氏の「2島」論 安倍氏は昨年末、北海道新聞とのインタビューで、2018年11月のシンガポールでの首脳会談で歯舞、色丹の2...

続きを読む

ロシア軍の兵力増強で緊迫するウクライナ情勢は、12月7日の米露首脳オンライン会談で、ロシア軍が直ちに侵攻する可能性は遠のいた。ロシアは安全保障に関する提案を米国に伝えるとしており、当面は外交に比重を置きそうだ。しかし、「プーチン氏が何を考えているか全く分からない」(オースティン米国防長官)とされるように、ロシアの出方は不気味だ。 プーチン「4つのシナリオ」 米国の専門家、アンドルー・ワ...

続きを読む

歴史認識問題での日本批判は中国と韓国が定番だが、今年はロシアがそれに加わってきた。ロシアはこの夏以降、第二次世界大戦中の日本の侵略行為を批判したり「戦争犯罪」の文書を公開したりしており、中韓以上の「反日」が目立つ。 スパイ・ゾルゲの再評価も ロシア外務省のザハロワ報道官は終戦記念日の8月15日、外務省声明を出し、「中国や韓国、東南アジアで日本の軍国主義者によって何百万もの人々が亡くなっ...

続きを読む

安倍晋三元首相の対露外交が失敗に終わったことを受けて、岸田文雄首相は安倍氏の「2島返還」路線を改め、国是の「4島」に戻す意向を示唆している。当面、日露交渉が進展する可能性はなく、この機会に対露外交の再構築が望ましい。 岸田氏は官邸官僚に批判的 日露平和条約締結を悲願とした安倍氏は2018年、歯舞、色丹2島の引き渡しをうたった1956年日ソ共同宣言を基礎にした交渉でプーチン大統領と合意し...

続きを読む

アフガニスタンに残る日本人や大使館現地スタッフら約500人を救出するためカブールに向かった航空自衛隊の輸送機は、日本人女性一人と部外者のアフガン人十数人を救出しただけに終わった。これに対し、同じ23日に出発した韓国軍の輸送機は390人を乗せてソウルに帰還した。救出作戦の明暗を分けた背景に、日韓の「外交官格差」がありそうだ。 韓国は4人残り、任務達成 韓国の報道によれば、韓国大使館員はカ...

続きを読む

 中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が6月28日に発表した共同声明を読むと、中露は軍事同盟を避けながら、軍事的義務を伴わない「準同盟」の関係に入ったかにみえる。中露の結束は、歴史的、地政学的に日本の安全保障にとって脅威で、中露の対日共同圧力が今後強まりそうだ。 「核心的利益」を相互支援 両首脳は、2001年に調印された中露善隣友好協力条約が7月16日に20周年を迎えるのに際し...

続きを読む

 国内の新型コロナウイルスのワクチン接種は引き続き混乱しており、100人当たりの接種回数は5月28日時点で8.9人で、世界108位だ。(日本経済新聞と英フィナンシャル・タイムズ紙の調査)。イスラエルは同116人と2回目の接種に入り、米国も87人。日本は手間取っていた韓国(12人)にも抜かれた。ワクチン開発競争は力負けだったが、戦略物資となったワクチン確保は熾烈な外交競争であり、日本の外交力不足を見...

続きを読む

 東京五輪開会式の7月23日は中国共産党創設100周年だが、その1週間前の7月16日は中露善隣友好協力条約の締結20周年に当たる。期限20年の同条約はこの日で期限切れとなり、中露は条約を修正して延長する方針だ。日本外交に悪夢となる「中露軍事同盟」はなさそうだが、事実上の「準同盟」に再編される可能性がある。 プーチン訪中で首脳会談 3月22日に中国・桂林で行われた中露外相会談の目的の一つ...

続きを読む

 2月1日に起きたミャンマーの軍事クーデターで、中国とロシアが背後で支援または黙認したとの憶測が出ている。中露両国は国連安保理で、クーデター非難声明の採択に反対し、ミャンマー軍部を擁護した。政変への直接関与はなかったとしても、中露両国が第三世界の政変に介入していく可能性がある。 インド洋地政学上の要衝 中国の関与説は、王毅外相が1月11、12の両日ミャンマーを訪れ、クーデターの首謀者、...

続きを読む

 沖縄県の尖閣諸島が、中国海警局公船の度重なる周辺海域侵入によって占領の危険にさらされている。ロシアが実効支配する北方領土は、7月に「領土割譲禁止」を盛り込んだ憲法改正で、返還がさらに遠のいた。わが国固有の領土である尖閣と北方領土の惨憺たる状況を招いた責任の一端は、日本外務省の外交失敗にあるというのが筆者の見立てだ。 日中関係は惰性で対応 尖閣諸島の領有権問題は1978年の日中平和友好...

続きを読む

 ロシアの著名な反政府運動指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏が8月20日、航空機で移動中に突然倒れたのは、旧ソ連軍が開発した神経剤、ノビチョクと同系統の毒物によるものとドイツ政府が発表したことで、欧米各国はロシアを厳しく非難した。欧米諸国は対露追加制裁に動く可能性が強く、日本政府もG7(主要7カ国)の一員として、「対露理念外交」を迫られよう。 欧米は最大級の表現で批判 プーチン体制下では...

続きを読む

 新型コロナウイルス禍の中で、中露両国の盟友関係が一段と強化されている。習近平国家主席とプーチン大統領が年間5、6回行う首脳会談は今年はないが、これまでに4回電話協議を行い、香港国家安全法施行やロシアの憲法改正でエールを交換した。政権延命を最重視する両国指導部の結束強化が目立つ。 国際的批判には互いに擁護 「一国二制度」を破壊する中国の香港国家安全法施行について、プーチン大統領は電話協...

続きを読む

 新型コロナ禍で今春深刻化した国内のマスク不足は解消し、4月に1枚80円だったマスクの平均価格は6月末には20円まで下落した。多くの日本企業が大量生産しており、今度は逆に、マスクの過剰生産、過剰在庫が予想される。 政府はこの際、余剰マスクを買い上げて、米国に無償支援したらどうか。米国のコロナ感染者は6月末で255万人、死者12万5000人。新規感染者が再び増加し、1日4万人に上るなど苦境にあ...

続きを読む

 2019年の人口動態統計で、1人の女性が生涯に産む子供の数にあたる合計特殊出生率は1.36と12年ぶりの低水準になった。19年に生まれた子供の数も86万人で戦後最少。新型コロナウイルス禍などで不安が広がれば、少子化は一層加速し、将来の経済活動や安全保障に重大な打撃を与えることになる。  少子化対策では、母親への各種手当など財政的インセンティブを導入し、出生率を高めたロシアの経験が参考になる。危...

続きを読む

 ロシアの新型コロナウイルス感染者は、4月5日時点で5389人(死者45人)と、日本の4556人(死者104人)を上回っている。それでも、米国や西欧諸国のような爆発的増加に至っていないのは、初動の水際作戦や早急な外出禁止令が効果を上げたためだ。ロシアは国境閉鎖を続けており、このあおりで日露間の北方領土ビザなし交流は、今年は中止となる可能性がある。  ●感染者は地方へと拡大か  プーチン政権...

続きを読む

 ロシアのプーチン大統領が発表した権力機構再編のための憲法改正提案は、唐突かつ意表を突くもので、ロシアのメディアは「1月革命」「1月テーゼ」などと報じた。大統領は既に憲法改正の関連法案を議会に提出しており、春にも議会承認を経て国民投票を行う方向だ。その場合、プーチン大統領辞任を含め、早期に新体制に移行する可能性がある。  ●鄧小平型の院政狙いか  改憲案の目玉は、大統領の権限が縮小され、上...

続きを読む

 ロシアは2016年の米大統領選に介入し、民主党へのサイバー攻撃やヒラリー・クリントン候補を貶めるフェイク・ニュースで「親露派」トランプ氏の当選に一役買ったが、結果的には、ロシアにとって裏目に出たのではないか。2020年の大統領選では、トランプ政権への失望から介入を控えるとみられる。  ●制裁総額は500億ドル  米議会は選挙介入に激怒し、対露経済制裁を断続的に強化。12月にもロシアからド...

続きを読む

国基研企画委員・拓殖大学海外事情研究所教授 名越健郎    9月5日にウラジオストクで行われた安倍晋三首相とプーチン・ロシア大統領の通算27回目の首脳会談は、平和条約交渉で一切進展がなく、暗礁に乗り上げた形だ。ロシア側は「2島」すら引き渡さない方針を固めており、安倍首相の「独り相撲」(朝日新聞と産経新聞の社説)が鮮明になった。安倍外交は対露戦略の総括と見直しが急務だ。  ●...

続きを読む

 日露両国の外務・防衛閣僚会議(2プラス2)と日ロ外相会談が5月30、31の両日東京で開かれたが、双方の対立や相違点が改めて鮮明になり、進展はなかった。外相会談は6月29日に日露首脳会談を大阪で開くことを決めたが、平和条約の大筋合意を目指した日本側の当初の思惑は崩れ、進展はありそうにない。プーチン体制下での決着はますます困難になっており、対露戦略の見直しが必要だろう。  ●防衛交流の本当の狙...

続きを読む

 安倍晋三首相が悲願とする日露平和条約締結に向けて本格交渉が1月から始まるが、交渉をめぐる環境は友好ムードとは程遠い。ロシア側は対日強硬発言を繰り返し、刺々しい雰囲気だ。交渉前に要求を高く掲げるロシア特有の交渉戦術の可能性もあるが、これでは平和条約を結んでも関係改善は難しいだろう。  ●強硬姿勢目立つ対日外交  ロシア外務省は1月11日、外相会談に先立って声明を出し、「4島へのロシアの主権...

続きを読む

 11月14日のシンガポールでの日露首脳会談は、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約締結交渉を加速させ、来年早々、安倍晋三首相が訪露することで合意したが、この合意により日本は固有の領土である国後、択捉両島を永久に失う恐れが出てきた。  「平和条約締結後に歯舞、色丹を引き渡す」とした日ソ共同宣言を基礎にすれば、2島が交渉対象となってしまうからだ。安倍首相はロシアの望む交渉枠組みに乗った形であり...

続きを読む

 日露間の北方領土交渉は、プーチン大統領が年内に無条件で平和条約を結び、その後に領土交渉を行うとする〝棚上げ案〟を表明するなど、大きく後退している。安倍晋三首相が悲願とする「任期中の領土問題決着と平和条約締結」に暗雲が漂うが、領土割譲に消極的なロシアを動かすには、従来のやり方では、もはや不可能だろう。対露交渉では、ロシアに返還を決断させるような変化球やサプライズが必要となる。一つのカードになり得る...

続きを読む

 ロシア軍は9月11日から5日間、極東一帯で兵力30万人を動員する過去最大規模の軍事演習を実施する。これには中国軍も3200人の部隊を派遣し、緊密な中露蜜月をアピールするようだ。演習と並行してウラジオストクで「東方経済フォーラム」が開かれ、安倍晋三首相が出席するが、憂鬱な外遊となりそうだ。  ●中国を同盟国扱いするロシア  中露は例年、日本海や東シナ海で海軍合同演習を実施するが、ロシア国内...

続きを読む

 トランプ米大統領は7月16日にフィンランドで行う米露首脳会談で、ロシアによるウクライナ領クリミア併合を容認する可能性のあることを示唆した。米欧の同盟関係に亀裂が深まる中、11、12日の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を含め、西側同盟はかつてない試練に直面している。  トランプ大統領は大統領選挙戦中も、「クリミアの人々はロシアと一緒になりたかった」などと、ロシアのクリミア併合を支持するような...

続きを読む

 5月26日にモスクワで行われた日露首脳会談は3時間近くに及んだが、平和条約交渉で進展はなかった。安倍晋三首相が「平和条約の第一歩」と位置付ける4島での共同経済活動も、事業化合意に至らず、ロシア側があまり望んでいないことを示した。両首脳の任期中の平和条約締結は困難な情勢であり、対露政策の再検討が必要だろう。  ●両首脳の基本認識にズレ  プーチン大統領は2016年の訪日時に、「領土問題の討...

続きを読む

 ロシア大統領選でプーチン大統領は76%の得票で予想通り圧勝した。次の6年の任期を全うすれば、首相としてメドベージェフ大統領体制を事実上仕切った時代を含め、実質在位は24年となり、ロシアではスターリン以来の長期政権。世界的にも異例の長さになるが、複雑かつ多角化する現代社会で長期政権は現実離れしており、変化に対応できない気がする。プーチン大統領が異常に高めた国粋主義の行方も気になる。  ●高ま...

続きを読む

 ロシアのプーチン大統領が3月1日に行った年次教書演説は、ロシアが開発中の新型戦略兵器などの動画を公開しながら威力を誇示し、「世界中どこでも到達可能な新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発した」「ロシアの最新兵器で米国のミサイル防衛(MD)は無意味になる」と強調した。  対米強硬路線を改めて示した形だが、演説をよく読むと、米国に対し、ロシアを無視せず、軍備管理交渉に入るよう呼び掛けるメッセージ...

続きを読む

 中国によるトランプ米大統領の盛大な歓待に、日本以上に苛立ったのはロシアだったかもしれない。プーチン大統領はその直後の11月10、11両日、ベトナム・ダナンでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合に出席したが、トランプ大統領とは立ち話にとどまり、会談できなかった。プーチン氏は記者会見で、「われわれの担当者がスケジュールを調整できなかった。彼らは処分される」と、強い不満を表明した。今後は米中...

続きを読む

 安倍晋三首相とプーチン大統領の19回目の顔合わせとなった9月8日のウラジオストクでの日露首脳会談は、肝心の北方領土交渉がさらに遠のいた印象を与えた。  首相官邸関係者は「安倍総理はプーチン大統領と今回も2人だけの交渉を重ねており、今後重要合意が飛び出す可能性もある」とし、なお期待を抱いているが、領土帰属交渉自体は明らかに後退しており、今後はプーチン後の政権との交渉も想定しておく必要があろう。 ...

続きを読む

 日露平和条約締結を悲願とする安倍晋三首相はこれまでに18回、プーチン大統領との首脳会談を重ねたが、残念ながら、交渉自体は後退しているかにみえる。毎回行う2人だけの密室会談を経て、何が飛び出すかは不明だが、首相官邸内でも悲観論が出ているという。  ●ハードル上げるプーチン  プーチン大統領はこのところ、北方領土問題で強硬発言が目に付く。6月1日の会見では、「南クリル(千島)が日本の主権下に...

続きを読む

 「史上最悪の冷え込み」とトランプ米大統領自身が認める米露関係で気がかりなのは、近年両国の核軍備管理交渉が行われていないことだ。冷戦期の米ソ対立は激しかったが、両軍専門家による軍備管理交渉が定期的に開かれ、米ソ戦略関係の安定化に貢献した。現在は交渉空白の中、米露は核戦力近代化を推進。トランプ大統領はしばしば核について不穏な発言をするし、プーチン大統領も「核の恫喝」に言及する。核の問題に敏感なはずの...

続きを読む

国基研企画委員・拓殖大学海外事情研究所教授 名越健郎    4月12日のティラーソン米国務長官の訪露では、米軍のシリア政府軍基地への攻撃をロシア側が「違法」と非難するなど、対立がクローズアップされた。トランプ米政権が対露融和外交に乗り出すとの当初の予測は吹き飛び、「米露の信頼関係は(オバマ前政権時代より)悪化している」(プーチン・ロシア大統領)とされる。トランプ、プーチン両政...

続きを読む