ロシアのプーチン大統領がこのところ、核兵器使用に安易に言及するのが気になる。2月19日には、最高司令官として核ミサイル部隊による弾道ミサイル発射演習を自ら指揮した。ウクライナ危機が高まる中での核の恫喝は不気味で、国連安保理常任理事国としての責任と自覚が問われよう。
クリミア奪還には核使用も
プーチン大統領は2月7日、訪露したマクロン仏大統領との共同会見で、「ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、クリミアを軍事手段で取り返そうとするなら、欧州諸国は自動的にロシアとの軍事衝突に巻き込まれる。ロシアは世界の主要な核大国だ」と述べ、核戦争に言及した。
大統領は「核戦争に勝者はない」としながら、「レッドライン」と位置付けるウクライナのNATO加盟が核戦争の導火線になるとの認識を示した。
クリミア半島を違法に併合しておきながら、奪還を図るなら核を使うという、狂気の発言だった。唯一の被ばく国である日本のメディアは、発言を問題視すべきだった。
大統領は2014年のウクライナ危機の際も、「核兵器をアラートに置くことを考えた」と告白しており、安易な核使用発言が目立つ。
昨年末には、国防省幹部会に出席し、極超音速ミサイルなど新型兵器の戦略ロケット軍配備を強調し、核戦力増強に自信を示した。
先制使用容認したロシア
旧ソ連は核の先制使用を否定しており、ソ連指導部が核の恫喝を行うことはほとんどなかった。冷戦期は通常戦力の規模で劣るNATOが、核使用も含めた「柔軟反応戦略」を採用していた。
しかし、現在のロシアの軍事ドクトリンは、「通常兵器の攻撃で国の存立が脅かされる場合、核兵器使用の権利がある」と核先制使用を容認している。通常戦力でNATOに劣るため、核戦力への依存を強めた形だ。
プーチン大統領が核戦力に盛んに言及するのは、それだけロシアが孤立し、包囲されているという危機感によるものだろう。
冷戦期には、米ソの軍備管理交渉が機能し、信頼醸成や緊張緩和につながった。しかし、米露間では現在、軍備管理交渉が行われておらず、当時の専門家らも退役し、双方の疑心暗鬼が広がる。ウクライナ危機が核の脅威を高める恐れがある。