公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.02.21 (月) 印刷する

強権国家の政治利用に阿るIOC 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

2月15日付の「ろんだん」で「IOCのガバナンスに問題はないか」と書いたが、ロシア・オリンピック委員会(ROC)のドーピング問題が拡大の様相を見せている。薬物を使用したとされる女子フィギュアスケートのワリエワ選手にスポーツ仲裁裁判所(CAS)は出場を認めたが、問題はCASのトップが国際オリンピック委員会(IOC)副会長のコーツ氏であることである。行政のナンバー2が司法のトップであるのは、まさに利益相反行為以外の何者でも無い。

ロシアは国家ぐるみの違反行為

2014年のロシアでのソチ冬季オリンピックで、検体すり替えなどのロシアによる国家ぐるみのドーピングが明るみなった。ドーピングに関わったのは、旧ソ連時代の国家保安委員会(KGB)の後継機関、ロシア連邦保安局(FSB)であった。

これによってロシアは、2020年から2年間、国名、国旗、国歌の使用が使用できなくなった。いわば、ロシアは謹慎処分の期間中にあり、今回、北京オリンピックの開会式にプーチン大統領が出席したこと自体、自粛すべき筋合いの行動であった。

しかし、外交的ボイコットで各国首脳が出席を敬遠する中で、中国の面子を保つ意味合いもあってプーチン氏は北京に出向き、見返りにNATO不拡大に対するロシアの主張支持を取り付けた。プーチン大統領は習近平主席との首脳会談ではまた、ウクライナに侵攻した場合に予想される西側諸国からの制裁に備え、液化天然ガス(LNG)のルーブル建て買い入れを中国に求めている。

人権弾圧に目をつぶるバッハ会長

中国共産党の元最高指導部メンバーから性的関係を持つように強要された女子テニスの彭帥選手とテレビ会議や食事を共にして身の安全をアピールし、閉会式では中国を絶賛したバッハ会長は、明らかに中国共産党の宣伝工作に手を貸したと言わざるを得ない。

中国国営テレビ(CCTV)の冬季オリンピック放映を見ていると、各国の選手たちが「オリンピックの運営に満足し、中国が好きになった」とする声ばかりを放映している。しかし、実際に参加した選手達は、中国国内で批判すれば、国家安全法によって拘束されるので、帰国後に「新疆ウイグルの人権弾圧をしている中国にオリンピックを開催する資格はない」等との批判をおこなっている。

ロシアはソチで、中国は北京で、それぞれプーチン、習近平が国威発揚により政権基盤の強化を企図している。

オリンピズム(五輪精神)の根本原則には「人権」や「政治的中立」が謳われ、「自身の組織の構成とガバナンスについて決定する」とある。ガバナンスとは、オリンピック憲章の理念に基づいて組織を管理していくことである。しかし現実にIOCは、それとは真逆の行動をおこなっていると言わざるを得ない。