冬季北京オリンピック競技において、審判の判定に疑念が噴出している。実は、筆者は東京都剣道連盟の倫理委員長を拝命し、都内各ブロックでの講習会で倫理講習に任じている。そのスポーツ倫理の観点から国際オリンピック委員会(IOC)のガバナンス(統治)に疑問を呈したい。
審判員構成に利益相反の疑い
スポーツ倫理には、根底にある理念と、綱紀規定に違反していないかを問うコンプライアンスの間に、罰則を伴わないソフトロー(柔らかい法律)と呼称されるガバナンスによって構成される。ガバナンスは、コンプライアンスのように違反したからといって罰せられる訳でもなく、遵守する側の自主的意識に依拠している。
スポーツ庁が示している「スポーツ団体ガバナンスコード規定」の原則8には「利益相反」がある。利益相反とは、スポーツ団体から信任されて任じられた公平・公正な審判・審査員としての規範と、彼らが帰属する国家やチームの選手を勝たせたいとする利益とが相反する事象を言い、英語ではConflict Of Interest(COI)と呼称する。
剣道の場合、ある連盟から信任された審判員は、自分が所属するチームが出場する試合の審判員を辞退するという不文律がある。自分の出身母体チームの審判を行ったとしても、綱紀規定に違反する訳ではないので罰せられることはない。したがって、自発性が求められることからソフトローと呼ばれているのだ。選手選考の場合でも、自分が育ててきた選手の選考に関わる会議では、席を外すことで良きガバナンスが保てるのである。
中国選手に甘い判定目立つ
今回の北京オリンピックのスノボ・パラレル大回転で失格となった竹内智香選手は、共に滑ったドイツ選手を妨害したとされているが、問題はこの時の審判員8名中の6名がドイツ出身者であったことである。竹内選手はレース後「判定に納得がいかない」と語っていたが、審判団の構成に疑問を持たれても不思議はない。
他にも複数の国の選手がスケートで失格と認定されたために、主催国である中国選手が表彰台に上がった。ジャンプ競技で、高梨沙羅選手を始めとする複数の選手に失格を宣告したポーランドの審判員などは、全くスキージャンプの経験がないとされる。
スピードスケート1500メートルに出場した髙木菜那選手は、バックストレッチで外側の選手に優先権があるのに、譲らなかった中国選手に進路妨害されて8位に甘んじた。だが、これを問題視する審判はいなかった。
元々、公正・中立であるべきIOCのバッハ会長自身が、中国の習近平共産党政権に阿る態度を示している。その支配下の審判員の倫理観は推して知るべしである。