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2022.02.21 (月) 印刷する

国会議員の免責特権は人権に優先されるのか 有元隆志(国基研企画委員兼産経新聞月刊「正論」発行人)

国会内での国会議員の発言は、議員の自由な議論を確保するため、院外で責任を問われないとする免責特権が憲法51条で定められている。だが、事実に基づかずに質問をし、民間人の人権を傷つけていることがある。国会議員は特権を乱用していいのか。2月15日の衆院予算委員会中央公聴会で、正面からこの問題を提起したのが、自身も国会質疑で野党議員から名指しで中傷された経験を持つ政策シンクタンク「政策工房」の原英史社長だ。

質疑尽くすための広範な裁量権

立憲民主党の森ゆうこ参院議員は令和元(2019)年10月の参院予算委員会で、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理だった原氏が不正行為を行ったかのような質問を繰り返し、「(原氏が)国家公務員だったら、あっせん利得、収賄で刑罰を受ける」と発言した。

森氏が根拠としたのは同年6月の毎日新聞の記事で、同紙は原氏の写真付きで「特区提案者から指導料」「200万円、会食も」と報じた。原氏は報道に直ちに抗議したが、野党は合同ヒアリングを立ち上げたほか、森氏らは国会質問で追及した。

この件については、立憲民主党の篠原孝衆院議員がブログで原氏らを誹謗中傷したとして、裁判で篠原氏に損害賠償命令が下された。だが、森氏に対しては免責特権があるとされ裁判で争えなかったのだ。

国会議員の院内での発言をめぐっては、札幌市の精神病院院長の妻が当時の竹村泰子衆院議員の委員会質疑で名誉を傷つけられ夫が自殺したとして、竹村氏と国を相手に損害賠償を求めた裁判があった。平成9年9月、最高裁は「あらゆる面から質疑などを尽くすことは国会議員の使命で、どのような問題を取り上げるかは国会議員の判断を含む広範な裁量にゆだねられている」「たとえ質疑等によって結果的に個別の国民の権利等が侵害されることになったとしても、直ちに当該国会議員がその職務上の法的義務に違背したとはいえない」として原告の請求を棄却する判決を言い渡した。

民間人の発言まで封じていいのか

国会会議録には質問が訂正されることなくそのまま載っている。ウエブ上でも公開され続けている。原氏がこれを削除してもらおうと思っても、免責特権が壁として立ちはだかっている。原氏は「ネットメディアだったら、ただちに削除を求めるが、国会にはそんな窓口はない。国会議事録はネットメディアよりはるかに酷く、デマを無責任に垂れ流す三流ゴシップメディア並みだ。数十年たって私の子や孫が、議事録に私の名前を見つけたらどう思うか」と批判した。誤った報道をそのまま鵜呑みにして、民間人を国会議員が中傷する。このような不当な人権侵害が許されていいのかというのが原氏の訴えだ。

原氏の訴えに耳を傾ける議員もいたが、日本共産党の宮本徹衆院議員は「私的な反論をとうとうと述べることは予算委員会の公聴会の在り方としてふさわしいのか。はなはだ疑問だ」と述べた。原氏を推した日本維新の会が宮本氏の懲罰動議を提出すると、宮本氏は「威圧的に口を封じようとするやり方だ」と反発した。

原氏によると、公述の最中、「威圧的なヤジ」を浴びせられたという。民間人に対しては発言が気に食わないとヤジを浴びせ、質疑で中傷しても許されるのか。野党合同ヒアリングでも、テレビカメラが入っている前で、野党議員が公務員に対して威圧的な発言が繰り返す場面があった。

国会議員に「広範な裁量」があるからといって、事実でない質問をし、時には民間人や公務員を威圧する特権まで与えられているのか。野党も野党なら、それを許してきた与党にも責任がある。国会議員の在り方が問われている。