公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.08.24 (月) 印刷する

日本外務省の甘い中露認識 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 新型コロナウイルス禍の中で、中露両国の盟友関係が一段と強化されている。習近平国家主席とプーチン大統領が年間5、6回行う首脳会談は今年はないが、これまでに4回電話協議を行い、香港国家安全法施行やロシアの憲法改正でエールを交換した。政権延命を最重視する両国指導部の結束強化が目立つ。

国際的批判には互いに擁護

「一国二制度」を破壊する中国の香港国家安全法施行について、プーチン大統領は電話協議で、「香港の国家安全を守る努力を強く支持し、中国の主権を脅かす挑発行為に反対する」と中国を擁護した。

プーチン大統領の2036年までの続投に道を開くロシアの改憲が全国投票で承認されたことについて、習主席は「ロシア人民による政権支持の表れだ」と評価した。新型コロナの初動の不手際をめぐって中国への損害賠償要求が欧米で広がった5月、プーチン大統領は「発生源をめぐり、中国の顔に泥を塗るやり方は受け入れられない」と強調した。

両国が発表する電話会談内容は微妙に異なるが、国際的な批判を浴びた両国の問題で互いに擁護し合った形だ。

コロナ問題ではロシアの経済的打撃が大きいが、中国はロシア産原油輸入を拡大し、支援している。プーチン大統領も、中国のミサイル攻撃警戒システム構築を支援していることを明かした。

同盟締結は双方とも望まず

中露が今後同盟に突き進むかどうかが注目点だが、プーチン大統領は「中露は戦略パートナー関係が完全で、ある点で同盟関係だ」述べる一方、「中国と軍事同盟を結ぶ計画はない」と軍事同盟は否定している。

中国にとって、ロシアとの同盟は欧米との関係を決定的に悪化させるほか、どの国とも同盟を結ばない国是があり、中露同盟は得策ではない。1950年の中ソ同盟条約がその後の中ソ対立で混乱した苦い過去もある。

現段階は、軍事同盟の義務を負わない「準同盟」といえるだろう。それでも、中露準同盟は地政学的に日本の安全保障に重大な打撃となる。安倍晋三首相の日露平和条約交渉が破綻した背景にも、中露準同盟が影響している。

1970-80年代、日本外務省高官は「日中友好と中ソ対立は永遠に続く」と豪語していたが、この夢想は完全に破綻した。外務省内には今でも、中露関係を「便宜的結婚」と過小評価する向きがあるが、体制護持という内政の最重要課題で結束する両国の離反は考えられない。