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2020.08.24 (月) 印刷する

サプライチェーン改革を徹底せよ 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)

 財務省が8月19日発表した7月貿易統計速報によると、貿易収支が4カ月ぶりに116億円の黒字に転じた。黒字と言っても、日本からの輸出額は5兆3689億円と対前年同月比では19.2%減少した。輸入額も5兆3572億円と同比22.3%の減少で、貿易全体が縮小したままであることに変わりはない。本格的な経済回復の時期は、依然不透明である。

7月は世界各国で経済活動の再開が進んだことを受け、米国向け輸出も前年比19.5%減(6月:同46.6%減)とマイナス幅を大きく縮小させたが、際立ったのは中国向け輸出が前年比8.2%も増加したことである。

欧米の経済回復の時期が見通せない中で、いち早く経済活動を再開させた中国向け輸出が下支えすることへの期待が強まった結果といえるが、問題は、コロナ禍が喚起したグローバルサプライチェーンの抜本的な見直しが停滞していることである。

コロナ後も続く中国依存

2019年の日本の対中輸出は14.7兆円で、輸出全体に占める割合は19.1%。輸入は18.4兆円で、輸入全体の23.5%を占めた。下図は2017年の国際比較だが、主要先進国の中で、日本は中間財の輸出入における対中依存度が最も高い。

中間財輸出入における中国依存の国際比較(2017年)

個別事例で注目を浴びたのは、トヨタ自動車とスズキが、コロナ禍中にもかかわらず4~6月期に最終黒字を確保したことである。

ちなみに日産自動車は2858億円、ホンダも808億円の最終赤字を計上した。ホンダが4~6月期で最終赤字に沈んだのは初めてである。欧米勢も厳しく、ドイツのフォルクスワーゲンは16億700万ユーロ(約2000億円)、アメリカのGMは7億5800万ドル(約800億円)の最終赤字に陥った。

トヨタの世界販売(トヨタ・レクサスブランド)は、6月単月では前年比16%減まで回復した。なかでも中国での4~6月期の販売が48万2000台と前年同期比で約14%も増えたことが下支えとなった。

さらに、トヨタは中国市場での販売目標を新型コロナウイルスの感染拡大前の前年比8.6%増の176万台としている。トヨタの事例は、日本企業がいかに中国に依存しているかを如実に表している。

日本企業の脱中国の試みは、日本の産業界全体のリスク管理の問題として、早急に官民を挙げて取り組み、具体的な筋道をつけるべきである。

政府の支援も大幅に拡充を

政府は令和2年度一般会計補正予算(4月7日閣議決定)で、以下のようなサプライチェーン改革対策として2486億円を計上した。

主なものとして①生産拠点等を日本国内に整備する場合に当該生産拠点等に係る建物や設備の導入に係る経費を補助する「国内投資促進事業費補助金」(2200億円)、②ASEAN(東南アジア諸国連合)などで製品・部素材の生産拠点を複線化する際には、設備導入・実証試験・FS調査等に係る経費を補助する「海外サプライチェーン多元化等支援事業」(235億円)―などがある。

①の補助金に関しては、既に57件(約574億円)が採択され、さらに7月22日の締切りまでに1670件(約1兆7640億円)の応募がなされている。採択された57件のほとんどは、医療関連事業だ。②の補助金も30件が採択済みだが、やはり業種は医療関連である。

いずれも予算規模は小さく、中小企業が中心で業種も限られている。「サプライチェーンの改革」と大見えを切るにしては、その効果は心もとない。今後も予想される米中対立の激化も踏まえ、産業界全体として中国依存体質からの脱却を実現すべきだ。とりわけ生産拠点や調達先の分散化は早急に進めるべきである。

コロナ感染の拡大期には盛んに議論されたにもかかわらず、中国の経済活動が復活すると一転して中国依存に回帰するのはなぜなのか。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」ということでは、日本経済の持続的な成長は覚束ない。