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2020.08.24 (月) 印刷する

健康不安の説明要求より野党がやるべきこと 有元隆志(産経新聞正論調査室兼月刊「正論」発行人)

 安倍晋三首相の健康状態をめぐり、様々な憶測が広がっている。それはあくまで憶測であり、首相本人が「体調管理に万全を期すために先般(8月17日)検査を受けた。再び仕事に復帰し頑張っていきたい」(19日、記者団に対し)と言っている以上、体調に一層気を遣いながら、目下の中国・武漢発の新型コロナウイルス対策と落ち込んだ経済の回復、そして悲願とする憲法改正へと邁進してほしい。第1次政権の時のように、突然に辞任表明し「政権投げ出し」の印象を与えるようなことは絶対に避けたいと、誰よりも強く思っているのは安倍首相本人である。

自民は首相信じ一致結束を

首相が難病を抱えていることは第1次政権で総辞職した後、自身が明かしている。17歳のときに発症した潰瘍性大腸炎を持病として持ち、第1次政権ではインド訪問などの無理がたたって悪化し、辞任に追い込まれた。その後、新しい薬の登場により、病気をコントロールできるようになった。第2次政権では、24日に大叔父の佐藤栄作元首相を抜いて連続在職日数歴代1位になった。

首相周辺によると、連日のコロナ対策による疲労の蓄積で症状が少し悪化した。それでも、入院するほどではないと判断した。麻生太郎副総理兼財務相をはじめ、夏休みを十分とるなどして回復に努めたほうがいいと助言する人は少なくないが、首相本人は「大丈夫だ」として、抑え目ながらも通常の執務をこなしている。

第1次政権のときは平成19年9月に内閣改造を行い、所信表明演説から2日後に首相は退陣表明した。この時は真相が明らかにされず、多くの国民が疑問に思った。首相は後に読売新聞のインタビューに「正直に話したほうがいいと言う人もいました。女房もそうです。しかし、政治家にとって病気があると知られるのはマイナスだと考え、ずっと黙っていたのです」と答えている。あれから13年たち、首相が難病指定されるほどの悪疾を抱えていることは広く知られている。今回、首相も隠すことなく慶応病院に検査に行った。この病と50年近く向き合ってきて、誰よりも自分の体調のことを知っているのは首相本人である。自民党議員も憶測で語るのではなく、首相を信頼し、一致結束して難局にあたるべきだ。

野党はコロナ対策打ち出せ

立憲民主党の枝野幸男代表らは国会で説明するよう求めているが、一国の首相の健康状態を微に入り細に入り国会で質すことが国益上必要なのか考えてほしい。そうでなくても、日本の首相ほど国会審議に束縛されている例は先進国でもまれだ。米大統領のように議会出席は一般教書演説の時の1日だけというケースもあるが、同じ内閣制度の英国との比較を、衆院調査局の岸本俊介局長(当時)が『RESEARCH BUREAU 論究』(第14号、2017年12月)で発表している。それによると日本の首相の国会出席回数は2016年で112回、出席時間は370時間程度だったが、英首相の議会出席は46回、出席時間は50時間程度(2015-16年会期)だった。

野党が本当に臨時国会の早期開催を望むのなら、追及チームを組んで官僚たちを追い詰めることに嬉々とするのではなく、新型コロナウイルス対策で審議すべきテーマと法案を用意し、メディアにも説明して世論を盛り上げることに力を入れるべきだろう。