約一カ月前の7月29日、米シンクタンクの全米アジア研究所(The National Bureau of Asian Research、以下NBR)が「抗争水域の航海:東シナ海における日米同盟協調関係」と題する報告書の中で、尖閣諸島防衛のための常設の日米統合任務部隊(U.S.-Japan Standing Bilateral Joint Task Force)の設立を提言した。
数年前、筆者と同じ年齢の元太平洋軍司令官ファーゴ海軍大将と東京で会った際、集まって来たのがNBRメンバー達であり、NBRの国家安全保障研究グループ座長は元統合参謀本部議長シャリカシビリ陸軍大将で、今回の報告書は元米海軍作戦部長のグリーンナット海軍大将が纏めている。
日本政府は対中抑止力を向上させる観点から、同提言を真剣に検討し対応すべきだ。
米軍との直接対決恐れる中国
2012年9月、筆者は中国の大連で、北東アジアの海上安全に関する国際会議に参加し、多くの人民解放軍の上級幹部や関連シンクタンクである中国国際戦略研究基金会のメンバーを前に「尖閣諸島を含む東シナ海で何かあった場合、前年の東日本大震災時同様、日米両軍は即、共同で対応する」と述べたところ、彼らは休憩時間、額を突き合わせて深刻な表情で協議していた。
弱い者虐めが大好きな人民解放軍は米軍との直接対決だけは避けようとしている。その意味で、常設の統合任務部隊を設立することは中国に対する抑止効果を高める上で極めて有効である。
筆者がもう一つ効果的と思う日米協力は、尖閣諸島を米軍の射爆場として復活することである。8月28日、中国海警局の船が尖閣の大正島に5kmのところまで領海侵入したが、その大正島は1978年に中止されるまで射爆訓練に使われていた。中止の理由は恐らく翌年の米中国交正常化を睨んだ米側の配慮だろう。中央情報局(CIA)のチベット亡命政権に対する支援も同時期に停止されている。中国側から止めるよう要請があったのかもしれない。
しかし、先月ポンペオ米国務長官が中国の南シナ海における主権を認めない旨の演説をした今日、尖閣での射爆訓練復活は時宜を得ている。日本にとっては施政権だけでなく主権を米国に認知されたことになり、米軍にとっても、将来実施したい南シナ海の中国人工島攻撃上、格好の事前訓練場所になるであろう。
中国が弾道ミサイル打ち込む狙い
8月26日、中国は海南島と西沙諸島の間の南シナ海に、内陸と沿岸部の両方から「グアムキラー」と呼ばれるDF-26Bと「空母キラー」と称されるDF-21Dの2種類の弾道ミサイルを合計4発打ち込んだ。軍事的には、対応が困難な異なる場所から異種類のミサイルを同じ海域に弾着させる訓練を実証したかったためと思われるが、政治的な狙いは要するに「近づくな」というメッセージであろう。
このような中で29日、グアム島で日米防衛相会談が行われ、東・南シナ海で力を背景とした一方的な現状変更を行う中国に反対することで一致した。
同28日の中国軍報英語版は「米国は南シナ海で孤独、疲れ切っている」と報じたが、29日の日米防衛相会談で共有された認識からも、決してそのようなことはない。
南シナ海では海上自衛隊もヘリコプター搭載護衛艦の「いずも」や「いせ」を米海軍との対潜訓練に参加させている、またP-3C哨戒機をフィリピンのパラワン島に2年おきに、さらに潜水艦をフィリピンのスービック湾やベトナムのカムラン湾に派遣している。豪州軍も航行の自由作戦に参加している。中国の偽情報に騙されない備えが必要だ。