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2017.06.05 (月) 印刷する

米露最高司令官の核認識は軽すぎる 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 「史上最悪の冷え込み」とトランプ米大統領自身が認める米露関係で気がかりなのは、近年両国の核軍備管理交渉が行われていないことだ。冷戦期の米ソ対立は激しかったが、両軍専門家による軍備管理交渉が定期的に開かれ、米ソ戦略関係の安定化に貢献した。現在は交渉空白の中、米露は核戦力近代化を推進。トランプ大統領はしばしば核について不穏な発言をするし、プーチン大統領も「核の恫喝」に言及する。核の問題に敏感なはずの日本の新聞は、この問題をあまり報じない。

 ●START失効で無条約状態も
 米露間では2010年、両国の戦略核弾頭を1500発まで削減する新戦略兵器削減条約(START)が調印されたが、12年にプーチン氏が大統領に復帰して以降、両国間で軍備管理軍縮交渉は事実上行われていない。オバマ、プーチン両大統領は犬猿の仲で、公式首脳会談は一度も行われず、それが両国のアームズ・コントロール(軍備管理)にも影響したようだ。
 トランプ政権下で米露関係は改善も予想されたが、トランプ陣営の「ロシア・ゲート」疑惑が足かせとなり、関係はむしろ後退している。
 こうした中で、通常戦力で欧米に劣るロシアは核戦力の近代化を急テンポで推進。新たに地上発射型の新型巡航ミサイル「SSC8」を欧州に配備し、米側は1987年調印の中距離核戦力(INF)全廃条約に違反すると抗議した。2021年には新STARTが失効し、核分野は無条約状態になりかねない。

 ●ありうるキューバ危機の再来
 最高司令官としてのトランプ大統領の核認識も危うい限りだ。選挙戦中、日韓両国が核武装しても構わないと述べたり、「イスラム国」の攻撃を受けたら、「核で反撃する」と発言したりした。2月に安倍晋三首相とフロリダ州の別荘でゴルフをしていた時、核のボタンを入れたブラックボックスが別荘に無造作に置かれ、持ち運ぶ武官もレストランで時間をつぶしていたことが米メディアで報じられた。公職経験がなく、学習意欲もなさそうな人物が核のボタンを握ることにはやはり不安がある。
 プーチン大統領も14年のウクライナ危機の際、「核兵器をアラートに置くことを検討した」と述べたことがある。米国のミサイル防衛網を突破する複数弾頭の新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)保有の必要も強調する。
 両大統領ともに、負けず嫌いで譲歩しない性格だけに、両国関係が逆流すれば、「キューバ危機」の再来もあり得るのでは−と危惧してしまう。
 両大統領と個人的親交を持つ安倍晋三首相には、唯一の被爆国首相として、2人に米露軍備管理交渉再開を働きかけてもらいたいものだ。