いささか陳腐な
周知のように、昨年8月8日に天皇陛下から発せられたビデオ・メッセージは、皇室典範に定める「重病などによりその機能を果たし得なくなった場合」という摂政設置事由にとどまらず、「天皇の高齢化」という新たな条項を加えて、それを「譲位」の条件とする新立法の制定を示唆される衝撃的な内容であった。
遠く飛鳥・奈良時代に始まり、平安時代以降は常例となって続いてきた譲位が皇位継承の混乱を招き、しばしば政争の具とされてきた苦い歴史の教訓を鑑みて、皇位継承原因を「天王崩御」に限定した明治・昭和の両典範には先人の英知が込められていると思うのだが、今上陛下ご一代に限るという譲位に関する特例法案が衆議院で可決され、参議院で審議されつつある今日、これ以上の言及は控えたい。
●首相時代は「皇室活動の安定性」と説明
本法案は「政争の具」とされないために、事前に衆参両院正副議長が各党の代表を招いて議論の集約を図るという異例の措置が取られ、その合意事項が「国会見解」としてまとめられて公表された。問題はそこに登場した「女性宮家」という語である。
女性をご当主とする宮家は女系天皇を容認する小泉純一郎政権下で初めて取り上げられたが、この導入をさらに積極的に推進しようとしたのは野田佳彦内閣の時である。注目すべきはこれを審議した参議院予算委員会(平成24年2月9日)で、当時の野田首相は、「皇位継承の問題ではなく」、「皇室活動の安定性をどうするのか」という観点から「女性宮家」の論議をすすめたことである。
●今は「安定的な皇位継承」へと変化
ところが、今回、特例法案に付せられている先規「国会見解」に明記された「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について…検討を行い」という一節に関して、与党側がやや消極的であるのに対し、野党第一党の民進党幹事長として野田氏は、この議論を直ちに行うよう強硬に主張したため、与野党間でしばし紛糾したと報じられている。
既述したように、かつては「女性宮家」創設を「皇位継承の問題ではない」と明言していた野田氏が、今は同じ語を「安定的な皇位継承」という文脈で語っている。本件のキーワードである「女性宮家」の発案者とみられることもあるだけに、この2つの陳述の間に厳然としてある見過ごすことのできない重大な落差について、きちんとした説明が求められよう。