公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.06.01 (木) 印刷する

TPP11で米国に協定復帰の圧力を 大岩雄次郎(東京国際大学教授)

 環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Partnership:TPP)署名11カ国は、5月21日にベトナム・ハノイで閣僚会合を開き、早期発効を目指すことで一致した。日本が目指す「11カ国での先行発効」など具体的な方向性には触れなかったが、米国抜きの早期発効に向けた選択肢の検討を11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までに終えることなどが確認された。TPPは今後も予断を許さない情勢にあるが、より高いレベルの貿易ルールの構築は世界経済の拡大に不可欠だ。そのスタートラインの思いを忘れてはなるまい。

 ●自由貿易圏の拡大を目指せ
 今回の閣僚会合の第1の成果は、「早期発効」について参加国間の一致を見たことである。
 その意義は、土壇場で参加を見送った米国を除く署名11カ国が「TPPの利益を実現する価値に合意した」ことを意味しているだけではない。実質的に、7月に日本で首席交渉官会合を開催した上で、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議までに具体的な選択肢の検討作業を終え、大筋合意を得るには、必然的に、協定の大幅な修正や一部の国が主張している中国の参加による再交渉の余地は排除される。
 さらに、「米国の復帰を促す方策を検討」することが共同声明でも確認されたが、11月までにTPP発効の目途を立てることで、来年秋の米国の中間選挙における争点とすることで、米国のTPP復帰を促す効果も期待される。
 また、共同声明には、「将来はTPPの高い水準のルールを受け入れることを条件に、TPPを拡大する」ことが盛り込まれた。参加意思を示しているタイやインドネシアをTPPに取り込むことで、より高いレベルの自由貿易圏の拡大が可能となる。
 但し、TPPに対する各国の思惑は様々である。日本と豪州、ニュージーランドの3か国は、米国抜きの11か国によるTPPの早期発効に積極的であるが、マレーシアやベトナムは、アメリカ抜きのTPPに慎重であり、米国の復帰を求めている。
 中国の介入を排するためにも、わが国のリーダーシップの下で、署名国と連携して、官民のチャンネルを通して米国への働きかけを一層強める努力が必要である。今後、日米経済対話の機会をとらえて、TPPの意義を米国に解く努力と覚悟が求められる。

 ●日 EU・EPAの交渉加速も重要
 本来、TPPは米国の対アジア戦略の経済面での柱であり、アジア太平洋地域の経済統合から米国が排除されることを回避し、TPPを通して米国内の経済成長を達成することを目的としている。その意味で、「米国抜きのTPP」の発効は、米国のTPP復帰への圧力になる。また、米国抜きのTPPを発効することでトランプ大統領の要求する二国間FTA(自由貿易協定)を牽制する効果が指摘されるが、むしろ米国に対してTPPの本来の意義を説き、復帰することが米国の利益に適うことを粘り強く説得していくことが重要である。
 米国がTPPから離脱したことで被る関税等の貿易のコスト負担増も、米国にはTPP復帰を促す圧力となる。日本は、現在交渉中のRCEP(東アジア地域包括的経済連携)や日 EU・EPA(経済連携協定)のメガFTA交渉を加速し、早期合意を目指すべきだろう。そのことも米国への圧力になる。さらに長期的には、TPPを土台とするアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に向けた具体的な通商戦略を提案することが求められよう。