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2018.07.03 (火) 印刷する

「クリミア」容認に踏み込むトランプ外交 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 トランプ米大統領は7月16日にフィンランドで行う米露首脳会談で、ロシアによるウクライナ領クリミア併合を容認する可能性のあることを示唆した。米欧の同盟関係に亀裂が深まる中、11、12日の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を含め、西側同盟はかつてない試練に直面している。
 トランプ大統領は大統領選挙戦中も、「クリミアの人々はロシアと一緒になりたかった」などと、ロシアのクリミア併合を支持するような発言をしていた。就任後に噴出した「ロシア・ゲート疑惑」に配慮してか、対露融和政策を封印していたが、このところ親露的な言動が目立つ。

 ●国際秩序台無しにする恐れ
 主要7カ国(G7)首脳会議でトランプ氏は、ロシアを加えたG8に戻すべきだと唐突に提案した。ツイッターに「ロシアは選挙への干渉などしていないと言い続けている」と書き込み、干渉疑惑に関するロシアの言い分をなぞった。ボルトン大統領補佐官をモスクワに派遣し、米露首脳会談も設定させた。
 この時期の対露融和外交は、北朝鮮の金正恩委員長との初の米朝首脳会談が概ね米国内で評価されていることから、プーチン大統領との首脳会談で米露関係改善を打ち出し、中間選挙を念頭にさらなる支持率上昇を狙っている可能性がある。加えて、ロシア・ゲート捜査を乗り切れるという自信もあるようだ。
 クリミア併合は「力による現状変更」(安倍晋三首相)であり、国際法違反という点で西側諸国は一致している。米国や欧州連合(EU)は厳しい対露制裁を加えたが、米大統領がクリミア併合を容認すれば、ちゃぶ台返しであり、国際秩序が台無しとなる。
 EUは全力で阻止にかかるだろうが、安倍政権は日露平和条約交渉進展になお期待をかけ、トランプ大統領に直言できないだけに、立場を鮮明にしないだろう。

 ●日米関係にも影響しかねず
 もっとも、反露で結束する米議会は超党派で対露制裁を年々強化し、大統領の制裁解除権限を法律で奪っており、「米露個人会談」(ロシアの外交評論家、フョードル・ルキヤノフ氏)にとどまる可能性もある。
 米欧関係はトランプ政権がEUに貿易制裁を施し、イラン核合意などから一方的に離脱したため亀裂が深まり、EUのトゥスク大統領は米欧関係の「最悪のシナリオ」に備えるべきだと警告した。通商摩擦だけでなく、戦後70年続いた大西洋同盟全体が断絶するかもしれないという警告だった。
 トランプ政権によって、米外交は劣化が目立ち、世界の民主勢力のリーダーだった往年の威信や影響力は見る影もない。日米関係は安倍・トランプ両首脳の緊密な関係があるとはいえ、国益・個人優先外交が続くだけに、日米関係の「最悪のシナリオ」にも目配りが必要だろう。