公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.07.03 (火) 印刷する

米軍は今、広く薄い展開に 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 このところ在日米軍に絡む事故が続発している。航空機事故にせよ艦船事故にせよ、米軍基地の存在に反対する人達にとってみれば、不満の温床となっているであろうが、自衛隊(軍)経験者から見れば、それだけ与えられた任務が過酷で、人的にも機材面でも無理を強いられているのであろうと慮ってしまう。
 その主たる原因は、北朝鮮情勢の緊迫化等に伴って任務が増大・拡大した反面、2013年から約5年にわたって国防予算の強制削減が続いたことにある。軍の活動に十分な予算・人員が配されていないことが事故の続発にも影響しているのではないか。

 ●深刻化する人員不足
 朝鮮半島の緊迫化だけではない。先週はトランプ大統領が宇宙軍の創設に関する大統領令に署名した。
 約1ヶ月前には、米太平洋軍がインド・太平洋軍に改名され、隷下部隊はインド洋にも重点的に目を配らなければならなくなった。南シナ海での航行の自由作戦は頻度・規模ともに増大している。
 同じ頃、ロシアの脅威に対応するため、大西洋を活動範囲とする第2艦隊が再編成された。また、中国が3万トン級の大型原子力砕氷船を就役させ、北極海に進出させたことに対する措置も必要となっている。しかし、艦艇や航空機といった兵力ばかりか、それを戦力化する人員も増えていない。
 展開部隊の人員不足については、昨年相次いだ米イージス艦の衝突事故責任を問われて、解任された前第7艦隊司令官のアーコイン退役海軍中将が、米海軍協会誌「プロシーディングズ」(6月号)に、「基準にかなった前方展開ではない(It’s Not Just The Forward Deployed)」のタイトルで、深刻化している人員不足問題を訴えている。

 ●迫り来る台湾海峡危機
 米朝首脳会談により、朝鮮半島の緊張が緩和されたとの認識が広がる一方で、台湾周辺では人民解放軍の海・空軍による活動が活発化している。
 これに対し台湾に米軍は駐留していないため、危機に対応できるのは嘉手納に展開する米空軍と横須賀や佐世保を前方展開基地にしている第7艦隊のみである。しかも第7艦隊は最近、南シナ海での「航行の自由作戦」を継続しつつ、インド洋にも重点をシフトしなければならないという、厳しい状態にある。
 これに対し中国は空軍基地だけでも約30ヶ所から台湾に戦力を投入できる。6月21日付の産経新聞「正論」欄で、元米国防総省日本部長のジェームス・アワー氏が、沖縄の米海軍ホワイト・ビーチ近郊に新たな軍飛行場を作るべきだと書いていた。米軍としては、嘉手納基地が中国の弾道ミサイル等によって被害を被った場合に備え、できるだけ多くの軍飛行場を保持しておきたいのであろうが、沖縄に新たな基地を作ることなど夢のまた夢に聞こえる。
 米国は台湾に対し、中国の台湾侵攻のための水陸両用艦隊を、洋上で撃沈できる潜水艦の建造支援を行う意図があるが、具現化するまでに5年以上はかかるであろう。
 東アジアばかりでなく世界の安全保障を担ってきた米軍だが、いま大きな岐路に直面している。次は、緒戦で物を言うサイバー戦に投入している人的資源について米中の差を比較してみたい。