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2019.12.25 (水) 印刷する

ロシアの米大統領選介入は裏目に 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 ロシアは2016年の米大統領選に介入し、民主党へのサイバー攻撃やヒラリー・クリントン候補を貶めるフェイク・ニュースで「親露派」トランプ氏の当選に一役買ったが、結果的には、ロシアにとって裏目に出たのではないか。2020年の大統領選では、トランプ政権への失望から介入を控えるとみられる。

 ●制裁総額は500億ドル
 米議会は選挙介入に激怒し、対露経済制裁を断続的に強化。12月にもロシアからドイツに向かうガス・パイプラインに全会一致で制裁発動を決議した。議会は制裁緩和権限を大統領から奪っている。プーチン大統領は「欧米の制裁による損害は総額500億ドルに上る」と語っていた。
 プーチン大統領は19日の記者会見で、2021年に期限切れとなる米露戦略兵器削減条約(START)について、「ロシアは現行条約をそのまま延長する用意があるとの提案を米国に送ったが、回答は全くない。START条約がなくなれば、軍拡競争を阻止する手段が失われ、何もいいことがない」と述べた。トランプ大統領が戦略問題に関心がないことに不満なようだ。
 中距離核戦力(INF)全廃条約の廃棄に続いてSTARTが失効すれば、ロシアにとって痛手だ。通常、軍備管理分野が無条約状態になれば、経済の弱い方が不利で、米国の国内総生産(GDP)の8%にすぎないロシアが対抗して軍拡を挑むのは厳しい。
 オバマ時代の国防予算削減を批判したトランプ大統領は初年度に16%増額し、新型兵器開発に着手した。

 ●東京五輪サイバー攻撃に警戒を
 仮に「クリントン大統領」なら、INF全廃条約やイラン核合意から離脱することはなかったし、国防予算を大幅に増額することもなかった。この夏ロシア北部で、核燃料で飛ぶ新型ミサイルの実験中、ミサイルが爆発し、5人が死亡、放射能が漏れる事故も起こらなかったかもしれない。選挙に介入しなければ、これほど制裁を受けることもなかった。
 レーガン、ゴルバチョフ時代から必ず行われた首脳相互訪問も、トランプ政権下では実現していない。外交官相互追放で、米西海岸からロシアの外交公館は一掃されてしまった。
 プーチン大統領は会見で、トランプ政権下で米露対話が強化されるかとの質問に、「よくわからない」と投げやりだった。米下院の大統領弾劾についても、「一体何が起きているのだ。米議員に尋ねたほうがいい」とかわし、関心がなさそうだった。
 大統領選介入よりむしろ、ドーピング違反で今後4年間、国家としての五輪出場を排除されることから、平昌冬季五輪、リオ五輪に続いて、東京五輪をサイバー攻撃の標的にする恐れがあり、サイバーセキュリティーの強化が必要だ。