公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.12.26 (木) 印刷する

韓国は米国の同盟国なのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 23日の中韓首脳会談で、韓国の文在寅大統領は中国の習近平国家主席に「香港やウイグルの問題は中国の内政」「(トランプ米政権を念頭に)保護主義や一国主義は世界を撹乱」「一帯一路への連携協力を模索する」と述べた。
 文大統領の発言は、米国の方針とは一線を画し、中国に擦り寄る姿勢を鮮明としたものと言わざるを得ず、これが米国の同盟国かと耳を疑う。
 文大統領は韓国で有名な人権弁護士だったというが、単なる偽善にすぎなかったとしか思えない。米下院で可決されたウイグル人権法案には「国務長官は伝統的な同盟・友好国に制裁やビザの制限について同様の措置をとるよう密接に連携するように働きかけるべき」とする一節がある。すなわち米国は同盟国にウイグル人権法案に同調するよう求めているのだ。
 また最大の保護主義国家は中国ではないか。文氏はそのことに目をつぶっている。さらに中国の「一帯一路」構想に協力すると言うことは、対極にある日米推進の「自由で開かれたインド太平洋」構想に反旗を翻すことにはならないか。

 ●「一帯一路」に積極協力
 米国の非営利団体Trace Internationalが毎年、賄賂が横行する国の世界ランキングを発表している 。その中で賄賂横行のランクが高い国をターゲットにして中国は「一帯一路」の投資を行ってきた。したがって多くの入札は非公開であり、その国の独裁指導者と闇の契約を結ぶことが多い。即ち「自由で開かれ」てはいない。
 その結果として借金漬けの国が次々と誕生している。ドイツのオンラインデータベースStatistaの地図(2019年版)には、一帯一路によってGDPの25%以上の債務を抱えた国7カ国が表示されている。
 安倍晋三首相が、日本が「一帯一路」に参加する条件として財政健全性、開放性、透明性、経済性の観点から注文を付けてきたのもこのためだ。
 南シナ海はインド洋と太平洋を繋ぐ要衝だが、2016年に仲裁裁判所が、中国の南シナ海における領有権主張を全面的に退ける判決を下したのにも拘らず、中国は判決を「単なる紙切れ」と無視し、国連海洋法条約の締結国でありながら同法に背くという状態が続いている。
 さらに中国の投資相手国にはそれぞれ環境保護規制の法律が存在するが、「一帯一路」構想の下に進出する中国企業は、それにお構いなく環境を破壊している。例えばインドネシアのジャカルターバンドン高速鉄道、フィジー等の南太平洋諸国の港湾施設、エクアドルのコカコドシンクレア水力発電所、ミャンマーのチャウピュー港など枚挙に暇がない。パキスタン、ベトナム、ケニアでは石炭火力発電所を増設している。
 筆者は毎年、官邸の有識者派遣プログラムの下で米国各地での講演を行ってきた。その際、「自由で開かれたアジア太平洋」を推進する米日豪印の4カ国協力構想を説明すると、多くの聴取者から「何故、韓国が入っていないのか」との質問を受けてきた。今回の文大統領発言からも、韓国は「一帯一路」にむしろ積極的で、対極にある「自由で開かれたインド太平洋構想」には参入する考えがないことがはっきりしたといえる。

 ●「インド太平洋」との一体化は疑問
 川口順子元外務大臣は昨年10月、都内で開催された「第14回東京—北京フォーラム」で「一帯一路」と「自由で開かれたインド太平洋構想」をドッキングすべきだと発言した。
 しかし「一帯一路」は、言うならば「ならず者の高利貸し」であり、信頼性ではるかに優る「自由で開かれたインド太平洋」構想と一体化すれば、日米豪印も中国に加担する悪質な高利貸しに陥りかねない。
 本年4月に北京で行われた「第2回『一帯一路』国際協力サミットフォーラム」で、習主席は世界で高まる「一帯一路」批判を意識して「オープン、グリーン、クリーン、高いレベルで各国国民を富ませる持続可能性」をうたい上げた。
 これを以って「新しい日中関係を考える研究者の会」代表幹事の高原明生東大教授は「一帯一路」と「自由で開かれたインド太平洋」の共存を目指す、としている。しかし「南シナ海は軍事拠点化しない」とトランプ米大統領に約束しながら、着々と軍事化に勤しむ中国のことである。発言と行動が一致するかどうかをもう少し冷静に見極める必要があろう。