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2022.01.06 (木) 印刷する

北方領土交渉は「4島マイナス・アルファ」で 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

安倍晋三首相とプーチン・ロシア大統領の平和条約交渉が失敗に終わった後、北方領土問題はすっかり後退し、プーチン体制下での決着は困難になりつつある。岸田文雄首相にとって、対露外交は「敗戦処理」であり、重視しないだろう。この機会に対露戦略の再構築を図るべきだ。

不可解な安倍氏の「2島」論

安倍氏は昨年末、北海道新聞とのインタビューで、2018年11月のシンガポールでの首脳会談で歯舞、色丹の2島引き渡しをうたった「日ソ共同宣言」を交渉の基礎としたことについて、「100点を狙って0点なら、何の意味もない」と述べ、「2島返還」に転換したことを事実上認めた。

安倍氏はこの中で、「到達点に至れる可能性があるものを投げかけた」「時を失うデメリットの方が大きいと考えた」などと釈明したが、国是の「4島」を単独で一方的に変更した背景には不可解な部分が多い。

しかし結局、「ロシア内部での反対が強かった」(安倍氏)ことから、プーチン政権は「2島」も拒否し、挫折した。この間、「私とウラジーミルの手で必ず平和条約を締結する」などと期待を煽った安倍氏の対露外交はナイーブだった。

現状での「2島返還」論は、交渉術として稚拙だ。戦後日露は基本的に「4対0」で交渉してきたが、「2対0」の交渉になると、落とし所は2島以下になりかねない。ロシアのような国との交渉では、「4島」を前提とし、本格交渉に入ったら妥協点を探る「4マイナス・アルファ」の方が望ましい。もっとも、愛国主義全盛のロシアは、「4島」と聞いただけで交渉に応じないだろう。

岸田首相は対露交渉に消極的

日本側が交渉方針を「2島」から「4島」に戻すことは不可能ではない。プーチン大統領も就任直後は、4島の帰属問題解決をうたった「東京宣言」を認めていたが、その後無視した。

岸田首相は対露外交で、「(日ソ共同宣言に基づく平和条約交渉の加速で一致した)シンガポール合意を含め、これまでの両国間の諸合意を踏まえて取り組む」と述べており、シンガポール合意にこだわらない姿勢だ。安倍氏は岸田首相に安倍路線継承を求めているが、ロシアが「2島」にも応じない以上、他の多くの懸案を抱える岸田首相が対露交渉に力を入れるとは思えない。

ロシアの軍事専門家、パベル・フェルゲンハウエル氏は、「米国や日本、西欧諸国はプーチンと習近平の関係に楔を打とうと全力を尽くしたが、失敗し、ロシアは中国との疑似同盟を選んだ」と指摘した。米対中露という対立構図が緩和しなければ、北方領土問題の進展は難しい。