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2021.12.27 (月) 印刷する

独裁国家ロシアの暴走と主権侵害を許すな グレンコ・アンドリー(ウクライナ出身の国際政治学者)

ロシアはウクライナ国境付近に兵力を集結し、軍事的な脅しをかけている。米メディアによると、アメリカの情報機関は、ロシアは推定17万5000人を動員しており、ウクライナを攻撃する可能性があると見ている。またロシアは、北大西洋条約機構(NATO)に、東方不拡大を要求している。つまり、ウクライナとモルドバ、ジョージアはNATOに加盟してはならないと主張しているのだ。ロシアは、ウクライナにアメリカの軍事施設をおかないこと、そしてウクライナに武器を提供しないことも要求している。

旧ソ連圏の復活目指すロシア

この緊迫した状況を理解するには、まずはロシアが目指しているのは何かという事を理解しなければならない。プーチン大統領を中心とするロシアの指導層は、ソ連崩壊にともなって独立した諸国について「不当に奪われた領土」だと認識している。プーチン大統領自身、「ソ連崩壊は20世紀の最大の地政学的な大惨事」だと発言している。

つまり、彼らの目的は、少なくとも旧ソ連圏を取り戻し、可能なら旧共産圏を支配することである。ロシアの戦略は全て、旧ソ連圏の回復という大きな目的の一環と考えるべきである。

実際、ロシアは、2014年にウクライナに侵攻し、国土の約7%を不法占領している。ウクライナとの小規模な戦争はすでに8年近く続いており、1万5000人の死者が出ている。これはロシアの戦略の一段階だ。厳密に言えば、今回の兵力集結も、ロシアがゼロから新たな戦争を起こそうとしているのではなく、すでに起きている戦争の規模を拡大しようとしているのだ。

ロシアは、西側を脅し、戦争を拡大しない代わりに、西側から譲歩を引き出そうとしている。ロシアが要求しているNATO不拡大、米軍の不在、武器を提供しないことは、まさに東欧支配の準備段階だ。これを放置すれば、ウクライナをはじめとする旧ソ連圏の国々は、軍事大国ロシアの前で自身を守る手段を持てず、簡単にロシアに征服されてしまうだろう。

したがって、ロシアの要求を呑むことは、戦争阻止ではなく、確実に大きな戦争を呼び起こすことにつながる。本当に戦争を阻止しようとするなら、ロシアに侵略の代償は重いということを理解させる必要がある。

西側は最大限の制裁発動を

プーチン大統領は常に、侵略した場合の損得を計算している。今、侵略すれば、どれほどの人的損害や経済的な損失があるのか、国際社会の反発はどれほどか、ロシア財界の不満はどうかなど、様々な観点から計算している。そして、プーチン氏が、侵略欲を満たすために想定される損害は妥当だと判断すれば、侵略は実行に移されるだろう。

それでは、戦争を阻止するには、どうすればいいのか。もし大きな戦争を起こせば、最大限の制裁措置が確実に実施されることをプーチン氏に明確に理解させる必要がある。

まずは、ロシアを国際金融の枠組みから外した上で、ロシア富裕層や体制関係者が西側の金融機関に持っている資産を全面凍結する。次に、ロシアからの天然資源の購入を全面禁止し、経済的な封鎖を実施する。そして、できればウクライナ上空を飛行禁止区域にし、NATOの空軍が限定的に参戦することだが、それが無理な場合は、ウクライナが必要とする兵器を制限なく提供する。以上の3点が確実に実施されることをプーチン氏に明確に伝えることだ。逆に、以上の制裁が難しいというのであれば、大規模な侵略はプーチン氏の計算次第ということになる。

重要なのは、大きな戦争が起きてからの制裁だけではない。起きる前の制裁も重要だ。先述した措置の中から、一部の制裁を実施し、解除の条件として緊張緩和を求めることだ。つまり、「制裁を解除して欲しいなら軍を撤退させ、理不尽な要求を取り下げろ」と要求することだ。事前制裁は、ロシアに西側の本気度を伝えるものであり、大規模な戦争を回避するための効果的な手段だ。実際に小規模な戦争・侵略はすでに実行中なので、新たな制裁の根拠は十分ある。

さらに、もう一つロシアの戦略として考えられるのは、いわゆる「中規模戦争」だ。例えば、ウクライナ国土の半分と首都キエフの占領ではなく、一部の州だけを占領することだ。この場合は、ロシアの損害は少なく済み、国際社会の反応や報復措置はさほど厳しくないと考えているかもしれない。こうしたロシアのシナリオを阻止するには、西側はロシアに対し、侵略の規模に関わらず、いかなる現状変更であれ、最大限の制裁を発動するということを態度で示さなければならない。

サラミスライス戦略に乗るな

ロシアにとって今回の兵力集結の目的が、最初から戦争を起こすことではない可能性もある。戦争という脅しによって、少しずつ西側から譲歩を引き出す狙いかもしれない。もちろん、西側は、簡単に譲歩はしないだろう。しかし、戦争を回避するために、ごくわずかな譲歩ならあり得る。例えば、ロシアの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の開通を、ロシアが戦争を起こさないことを条件に黙認するとかいったことだ。

ロシア側も、このような形で西側から妥協を引き出そうとしてくることはあり得る。ロシアにとって獲得するものは大したことではないかもしれないが、これを何年かに渡って続ければ、いわゆる「サラミスライス戦略」でロシアに有利な状況を作ることは可能だ。この戦略を成功させないためにも、西側はロシアの脅しに屈せず、一切譲歩しない姿勢を貫くべきだ。「戦争を回避するためならこれぐらいの妥協はありうる」という思考は、ロシアに限っては誤りだ。

当面、ロシアが西側から最も引き出したい譲歩とは、ウクライナへの武器提供を縮小することだろう。「ロシアをやわらげ、戦争を回避できるなら、武器の量や種目について妥協は可能だ」という考えが西側から出てくることをロシアは狙っている。ロシアに人的被害を与えられるのはウクライナ軍だけだ。だからロシアが最も阻止したいのがウクライナ軍の強化だ。従って、ロシアの侵略を止めるために西側が最もやるべきことは、ウクライナ軍に必要なだけ武器を提供することだ。

独裁国家の暴走と主権侵害を許してはならない。国際社会は結束して、そうした共通認識を持つことが重要だ。