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2017.11.20 (月) 印刷する

米中接近に苛立ち隠せぬロシア 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 中国によるトランプ米大統領の盛大な歓待に、日本以上に苛立ったのはロシアだったかもしれない。プーチン大統領はその直後の11月10、11両日、ベトナム・ダナンでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合に出席したが、トランプ大統領とは立ち話にとどまり、会談できなかった。プーチン氏は記者会見で、「われわれの担当者がスケジュールを調整できなかった。彼らは処分される」と、強い不満を表明した。今後は米中接近、ロシア孤立の構図が深まりそうだ。

 ●米は内政への波及警戒
 ロシア紙の報道では、クレムリンでは当初、プーチン大統領がAPEC参加をキャンセルし、メドベージェフ首相が代理出席する案が検討された。しかし、米側が首脳会談に応じる意向を示したため、大統領は往復20時間以上かけて訪問を強行した。ところが米側は、土壇場で「日程が合わない」として立ち話にとどめ、大統領は面子を失った形だ。
 米側が会談に応じなかったのは、ロシアとの癒着というイメージを避けたかったためだ。ロシアゲート疑惑を追及するモラー特別検察官が、マナフォート元選対本部長らトランプ陣営の元幹部を起訴。さらに、国際調査報道ジャーナリスト連合が開示した「パラダイス文書」で、ロス米商務長官が役員を務めていた海運会社が、プーチン大統領の娘婿らが保有するロシアの石油化学大手と海運取引を行っていたことが発覚するに及んで、内政への波紋を警戒し、会談を断念したとみられる。
 ロシアゲート疑惑の捜査が進めば、トランプ大統領はプーチン氏との接触を避けるだろう。トランプ氏当選に歓喜したのも束の間、米大統領選へのサイバー攻撃などロシアの対米戦略は裏目に出た形だ。プーチン大統領は今後、米中が国際政治を裏で取引し、ロシアが置き去りにされる悪夢に苦しめられるかもしれない。

 ●思惑のズレ広がる日露
 欧米から厳しい経済制裁を受けて孤立するプーチン大統領に、G7(主要7カ国)で唯一手を差し伸べるのが安倍晋三首相だが、ロシアが北方領土問題で安倍首相に冷たい態度をとり続けるのは外交の閉塞を感じさせる。
 プーチン氏は会見で、日露の平和条約締結について、「日本が同盟を結ぶパートナーに負う義務を注視する。多くの作業を要し、1年では終わらないだろう」と述べ、「長期的に取り組む姿勢が重要だ」と強調した。
 昨年末の訪日後、プーチン大統領は日米安保体制が領土返還の障害になるとの発言を繰り返し、米露と日露は連動するとの認識を強めている。
 プーチン氏の大統領就任当初はプラグマチックな外交が目立ったが、その後、民族愛国主義を強める中で、次第に健全な外交感覚を失っている節がみられる。
 プーチン大統領は会見で、「(平和条約問題は)誰が政権の座にあるかに左右されない。安倍かプーチンかといったことは重要ではない」と述べ、「私とウラジーミルの手で…」と主張する安倍首相の方針を否定した。領土問題はプーチン後の解決も視野に収める必要がある。