公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2017.11.17 (金) 印刷する

TPP11がもたらす戦略的価値を忘れるな 大岩雄次郎(東京国際大学教授)

 米国の離脱で揺れた「環太平洋戦略的経済連携協定」(TPP)は11月11日、残る参加11カ国による閣僚間交渉の結果、米国抜きの新協定を発効させることで大筋合意に達した。新協定案の名称は「包括的及び先進的なTPP」(CPTPP)と改めた。
 これに先立つ7月4日には、日EUの経済連携協定(EPA)も大枠合意して年内の最終合意を目指している。いずれも2019年の発効を目指すとされている。
 TPPは中国の台頭をにらみ、アジア太平洋地域に自由で公正な経済秩序を構築する貿易の枠組みだ。日本は新協定を礎にして、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に向けた主導的な役割を果たすことが期待される。

 ●アジア太平洋初の広域FTA
 CPTPPでは、米国の復帰まで医薬品の開発データの保護期間など知的財産分野を中心に20項目が凍結されたが、2016年2月に米国を含む12か国が署名した従来のTPPの内容をほぼ維持し、9割以上の品目で関税が撤廃される。
 凍結項目は当初、60項目から80項目ほどあったとされるが大幅に絞り込まれた。電子商取引や国有企業等に関する規定は凍結項目に含まれていない。特に、電子商取引の「TPP3原則」といわれる「電子的手段による情報の越境移転の自由の確保」「コンピュータ関連施設の設置・利用要求の禁止」「ソース・コードの移転又はアクセス要求の禁止」は凍結から外れている。何れも中国への進出企業が、実際に直面している重大な問題である。各国の中国への重要なメッセージとなる。
 米国の離脱でスタート時点の経済拡大効果は減少したが、アジア太平洋地域では初となる、高い水準の自由で包括的な多国間の自由貿易協定(FTA)が合意に達した意義は大きい。スタート時点の規模減少を埋めて余りある成果といえる。
 新協定の実現は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)でASEAN諸国の取り込み図る中国を牽制し、RCEPの質を引き上げることにも役立つ。自由化の名に相応しい協定内容の実現に強力な手段となる。今後は、新規参加を希望しているタイ、インドネシア、台湾など、その他の国・地域も積極的に受け入れ、TPPの拡大強化を図る必要がある。

 ●日本農業再生の起爆剤に
 直面している対外問題は、トランプ政権による2国間FTA交渉の要求である。日本としては、TPP合意を譲らないことだ。関税の違いなどによる米企業の不利益が現実になれば、トランプ政権へのTPP復帰に向けた圧力になる。逆に、TPP合意を堅持できないなら、日本は新協定にとどまった残りの10カ国からの求心力を失い、RCEPでの中国の勢いを加速させかねない。政府の覚悟が試されるときである。
 日本国内に目を転じれば、問題は依然、農業対策である。日本農業は、1984年に11.72兆円に達した産出額が、2001年には約9兆円まで減少し、以降8兆円台で推移している。農業従事者の高齢化は深刻で、現在の平均年齢は67歳に達している。就業人口は約182万人へと減少し、新規就農者はわずか6万人にとどまっている。これにともなって耕作放棄地は全国で40万haへと急増している。これは東京都の総面積の実に2倍にあたる
 国内農業の衰退はTPPによるものではなく、国内の構造問題に起因する。むしろTPPを起爆剤に日本農業の再生と競争力強化をはかることこそ重要だ。政府は、その理解を深めるために最大限の努力を続けるべきである。