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2017.07.24 (月) 印刷する

本当は後退する日露平和条約交渉 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 日露平和条約締結を悲願とする安倍晋三首相はこれまでに18回、プーチン大統領との首脳会談を重ねたが、残念ながら、交渉自体は後退しているかにみえる。毎回行う2人だけの密室会談を経て、何が飛び出すかは不明だが、首相官邸内でも悲観論が出ているという。

 ●ハードル上げるプーチン
 プーチン大統領はこのところ、北方領土問題で強硬発言が目に付く。6月1日の会見では、「南クリル(千島)が日本の主権下に置かれた場合、日米条約に沿って米軍基地が島に置かれる理論的可能性が存在する。島の非軍事化だけでは不十分で、地域の緊張が縮小した時にのみ長期的合意が可能だ」と述べた。
 昨年12月の訪日時の共同会見では、日米安保条約を指摘し、「ロシアの立場にも配慮してほしい」と婉曲な表現で述べていたが、今回は北方領土返還時の米軍基地設置の可能性に直接言及。「東アジアの緊張緩和」も領土返還の条件にすることを示唆した。大統領の言う引き渡しの対象はあくまで、1956年日ソ共同宣言で明記された歯舞、色丹の2島だけだが、従来にない高いハードルを設定したといえる。
 安倍首相が「平和条約への第一歩」とする4島での共同経済活動も、「特別な制度」の構築は難航している。6月末に長谷川栄一首相補佐官を団長とする官民合同の調査団が国後、択捉、色丹3島を訪れたが、参加した日本企業関係者は通信・輸送などインフラ未整備を問題視していた。

 ●「領土」霞み、「経済」主題に
 ロシア側も軍や国境警備隊の基地付近の視察を拒否し、保守派や実力機関は共同経済活動に抵抗している模様だ。ロシア政府は4島を「先行発展地域」の対象にするとしており、あくまでロシアの法制度で実施する意向だ。
 仮に共同経済活動が始まっても、それが領土線引きを含む平和条約締結につながるかどうかは不透明だ。日露交渉では、共同経済活動が主要議題となり、領土帰属問題はすっかり脇に追いやられた。
 ロシアの強硬姿勢には、米露関係冷却化や来年3月の大統領選が影響しているとみられるが、プーチン大統領が4選を果たしても、交渉が前進する保証はない。
 内向きになるトランプ米政権、深刻化する北朝鮮の核・ミサイル問題、それに視界不良な北方領土交渉。内政で困難に直面する安倍政権は外交でも難局に直面しつつあり、一度踏みとどまって外交戦略を見直す必要があると思われる。