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2017.07.24 (月) 印刷する

「ジェラルド・R・フォード」の就役に思う 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 22日、電磁式カタパルト(射出機)を装備した最新鋭の米原子力空母「ジェラルド・R・フォード」が就役した。電磁式カタパルトは、これまでの蒸気式カタパルトに比して航空機の発艦出撃回数が大幅に改善される。
 一方で4月26日、中国海軍は空母の2番艦を進水させた。旧ソ連製の1番艦「遼寧」と比べると、レーダーには機械的ではなく電子的に回転し、広範囲をカバーする高性能の「フェーズド・アレー・レーダー」を装備してはいるものの、航空機の発艦は蒸気式カタパルトにも及ばないスキージャンプ式である。

 ●いまだ大きい米中の実力差
 中国にとっては、カタパルトの技術が喉から手が出るほど欲しいのであろう。中国系アメリカ人であるチ・クマが電磁式カタパルトを含む技術を米国から盗み出したとして起訴され、2007年に有罪判決を受けている。
 エンジンに関しても中国の2番艦空母は、高速が出せるガス・タービンを装備した模様である。しかし艦橋などの上部構造物には、「遼寧」同様、空気吸入用の鎧窓が観測され、ボイラー・テストを行っているかのような写真もある。
 このように、海軍力・技術力の比較でも、米中には今のところ大きな隔たりがある。経済力でも米国の優位は変わらない。だが、最近の米中の政治的動向を見ていると、片や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から離脱して自由貿易に背を向ける米国と、一帯一路構想等によってグローバルな貿易を推進しようとしている中国、またパリ協定からの離脱を宣言した米トランプ政権に対して、自分たちこそが環境問題で世界のリーダーだとして振る舞う中国は好対照をなしている。

 ●中国の印象操作に惑わされるな
 しかし、カタパルトなど軍事関連技術の盗み出しはスパイ行為として論外だが、それ以外でも中国が、自由貿易体制の基本である知的財産保護取り決めを守ろうとしていないのは明らかだ。また1年前の国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の裁定は、中国が南シナ海で大規模な環境破壊を行っていることも指摘している。環境問題についても中国が世界のリーダーとはなり得ないことを物語っている。
 単なる印象操作に惑わされず、冷厳な事実認識をすべきだ。