公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.07.18 (火) 印刷する

日本の海峡侵入繰り返す中国の狙い 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 7月2日に中国海軍の調査船が、通常と異なるルートで津軽海峡の我が国領海に侵入したのに続き、15日には中国海警局の船が、対馬海峡東水道の領海に2回にわたって一時侵入した。17日、この同じ海警の公船2隻が、今度は津軽海峡の領海に2回にわたって一時侵入した。一連の領海侵入は何らかの明白な意図の元に行われていると見るべきだろう。
 国際海洋法条約では他国の排他的経済水域(EEZ)では勿論のこと、領海内でも無害通航権を認めている。しかし前提条件は、あくまで沿岸国の平和・秩序・安全を害さないことだ。15日・17日の海域で、中国公船としての領海侵入が確認されたのは初めてで、武器を搭載していた可能性があるという。

 ●明らかなダブルスタンダード
 中国側は、「国際法にのっとって航行している」と主張。日本側も、「無害航行ではないという確定的な情報がない」として正式な抗議は見送ったというが、中国の動きには厳しい監視が必要だ。
 そもそも中国は、国際海洋法条約の批准国であるにも拘らず、1958年の領海に関する声明で「12海里の領海内に中国政府の許可なく入るべからず」と宣言。70年代にはEEZ内の航行についても、「沿岸国の権利と衝突しない限りにおいて」と一定の制限を定め、現在も踏襲している。「自国はやっても良いが他国がやるのはダメ」というのは明らかなダブルスタンダードだ。
 今回の一連の領海侵入は、南シナ海で航行の自由作戦に参加した米駆逐艦「デューイ」に海上自衛隊の「いずも」が洋上補給したことに対する意趣返しの可能性がある。しかし、長期的には南・東シナ海のみならず、日本海にも進出しようという中国の企図を読み取ることができる。

 ●北極海航路で高まる戦略的価値
 日本海を狙う理由として2つ推測されるひとつは、北極海航路の開発に向けた動きだ。
 地球温暖化に伴い北極海の氷が溶け、北極海航路が開発されると欧州との航路が、現在の南周りに比し約半分に短縮される。中国では、既にそれを見越してアイスランドの土地を相当買い占めている。
 中国にとってみれば北極海を経由して本土に到達するためにはオホーツク海から宗谷海峡を経るか、あるいは直接、津軽海峡を通って日本海に入り、対馬海峡を経由する航路が最も短い。逆に言えば、北極海航路によって日本の3海峡の戦略的価値が高まることに外ならない。
 現在、南シナ海に面する海南島・三亜を母港としている中国の晋級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)は、日本海に展開すれば搭載している弾道ミサイルJL-2で米本土を狙うことができる。

 ●土地買い占めにも透ける思惑
 2008年10月に中国海軍艦艇4隻が日本海から津軽海峡を初めて通過したが、中国が日本海の戦略性に注目し始めた証左だ。中国は日本海に面した北朝鮮の羅津港を60年間租借しており、日本海沿岸では、中国人が佐渡島を含めた新潟県や、北海道の奥尻島や岩内町の土地を買い占めている。以上のような情報を点として集めていくとやがて線に、そして最終的には面として中国の企図が浮き彫りにされてくる。