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2019.06.04 (火) 印刷する

日露対話を利用しているだけのロシア 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 日露両国の外務・防衛閣僚会議(2プラス2)と日ロ外相会談が5月30、31の両日東京で開かれたが、双方の対立や相違点が改めて鮮明になり、進展はなかった。外相会談は6月29日に日露首脳会談を大阪で開くことを決めたが、平和条約の大筋合意を目指した日本側の当初の思惑は崩れ、進展はありそうにない。プーチン体制下での決着はますます困難になっており、対露戦略の見直しが必要だろう。

 ●防衛交流の本当の狙い
 2プラス2でロシア側は、日本が配備を計画するイージス・アショアに懸念を表明。日米が主導する「自由で開かれたインド太平洋構想」について「開かれていない枠組みだ」と批判した。
 日本側が北方領土でのミサイル実験などロシアの軍事力拡大を「受け入れられない」と抗議したのに対し、ラブロフ外相は「ロシアの主権であり、領土だ」と開き直った。
 ラブロフ外相は会談後、「平和条約は日本が第二次世界大戦の結果を認めることなしには不可能だ」と指摘し、「日本は米国との軍事同盟に基づき、米国の攻撃的な発言を政権指導部が常に支持してきた」と日米同盟に警戒感も示した
 今回の開催はロシア側のイニシアチブだったが、これまで同様、ロシアの攻勢、日本の守勢という展開だった。一方で、両国は防衛交流の拡大やロシア海軍総司令官の訪日で合意した。ロシアは日米同盟の離間を図るとともに、日本との防衛交流で中国をけん制する思惑がありそうだ。

 ●日本も言うべきことは言え
 日露の2プラス2協議はこれが4回目で近年は毎年開かれている。欧米諸国は2014年のウクライナ危機以降、ロシアとの防衛交流を凍結しており、日本の対応は主要7カ国(G7)では異例だ。
 どうやら、ロシアにとって日本と対話を続けることは居心地がよさそうだ。日本とのパイプを通じてロシアが孤立していないことを誇示できる。日本側は領土交渉を念頭に、ロシアに批判的なことはほとんど言わず、宥和外交を取っている。交渉はロシアの言いたい放題で、日本は百戦錬磨のロシアに翻弄されている印象を諸外国に与える。
 プーチン大統領も3月、「日本との交渉は失速した」と述べながら、「日露対話を途切れさせてはならない」と語ったという。
 ただ、平和条約で合意する可能性がほとんどなくなったのに、交渉をだらだら続けると、ロシアをさらに高飛車にさせ、日本外交を卑屈にさせてしまう。
 近年、ロシアの外交安保戦略はますます攻撃的で、シリア、ウクライナの戦争に加え、イエメン、リビア、中央アフリカなど紛争地域に義勇軍を派遣している。シリア駐留ロシア軍とアサド政権軍は反政府勢力攻撃で病院を含め一般庶民の居住地域を攻撃していることが欧米メディアで批判されている。
 平和主義と人道外交を貫いてきた日本は2プラス2の場で、たとえばロシアの病院攻撃に懸念を表明すべきだった。