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国基研ろんだん

2021.02.09 (火) 印刷する

ミャンマー政変に中露の影 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 2月1日に起きたミャンマーの軍事クーデターで、中国とロシアが背後で支援または黙認したとの憶測が出ている。中露両国は国連安保理で、クーデター非難声明の採択に反対し、ミャンマー軍部を擁護した。政変への直接関与はなかったとしても、中露両国が第三世界の政変に介入していく可能性がある。

インド洋地政学上の要衝

中国の関与説は、王毅外相が1月11、12の両日ミャンマーを訪れ、クーデターの首謀者、ミン・アウン・フライン国軍総司令官と会談したことからささやかれた。中国側発表によると、王毅外相は中国・ミャンマー経済回廊の設置で協力を要請。フライン司令官は「台湾、香港、新疆ウイグル自治区の問題で中国の正当な立場を支持する」と述べた。

王毅外相の訪問は、東南アジア諸国連合(ASEAN)歴訪の一環で、今回拘束されたアウン・サン・スーチー国家顧問兼外相とも会談している。中国が政変に直接関与したとは思えないが、「好感」しているのは間違いない。

ミャンマーは「一帯一路」の拠点国で、インド洋に面する地政学上の要衝だ。中国は軍政時代のミャンマーに軍事・経済援助で肩入れしたが、2015年の総選挙で民主派のスー・チー氏が実権を握って以降、中国離れ、日米志向がみられた。軍事政権復活により、再びミャンマーへの影響力を強化できる。

中露の「体制延命」に利用

ロシアのショイグ国防相もクーデター前の1月20日から22日にかけて、ミャンマーを訪問していた。同国防相はフライン司令官と会談し、ミャンマー軍近代化へのロシア軍の協力で合意。ロシア側は地対空ミサイルや偵察用ドローンの供与を約束した。フライン司令官はこれまで6回訪露しており、ロシア軍と緊密な関係を持つという。

ミャンマーは鎖国時代にも、旧ソ連と関係を維持し兵器を輸入。現在もロシアの兵器輸出先としては5位か6位という。ミャンマー軍はロシア製兵器をロヒンギャなど少数民族弾圧に使用しているらしい。

中露にとって、ミャンマーのクーデターは世界の民主化潮流を後退させ、中露の最優先課題である「体制延命」の宣伝に利用できる。新型コロナ禍で途上国の社会・経済問題が先鋭化する中、中露が陰に陽に体制転覆や反米政権擁立に関与する可能性がある。

その意味でも、西側陣営は時代遅れのクーデターを早期に終了させるため、影響力を行使すべきだ。とりわけ、この数年外交予算を毎年二桁増額させながら、外交成果が全くない日本外務省は、日本と伝統的関係を持つミャンマー外交で、たまには成果を見せてほしいところだ。