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2021.02.15 (月) 印刷する

尖閣有事に備え日米4部隊の共同訓練を 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 中国が新しい海警法を今月上旬に施行した事に対抗して、我が国では海上自衛隊(海自)、海上保安庁(海保)、米海軍、米沿岸警備隊の4者が共同訓練を行うべきだという意見が出ている。

中国の海警船が徐々に事態をエスカレートさせ、尖閣を占領するシナリオが現実性を帯びつつあるなかで、日米の4部隊が共同訓練する事は、そうした事態が生起する時に備えて有効であり、また抑止力としても効果がある。

米海軍と海自は頻繁に共同訓練しており、海保も米沿岸警備隊とは平成22年9月に署名・交換した覚書に基づいて共同オペレーションを定期的に実施している。また一昨年、米沿岸警備隊は2隻の巡視船、「バーソルフ」「ストラットン」を佐世保に展開させたが、その戦術統制を執っているのは米海軍の第7艦隊司令官である。従って、問題は海自と海保の間の統制である。

まず海保と海自の統制権確認を

自衛隊法第80条第1項では、防衛出動や治安出動が下令された場合「海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣の統制下に入れることができる」とされている。しかし海上保安庁及び自衛隊が創立されてから今日に至るまで、防衛大臣が海保を統制する訓練は一度たりとも行われたことがない。

防衛出動が下令される前には海上警備行動(海警行動)が発令されるであろう。その場合の統制権は自衛隊法に明確な規定がない。平成30(2018)年6月に世界平和研究所が出版した「海と空のグレーゾーン事態への対処―その問題と対策―」では提言5で「海警行動時における現場での法執行機関たる海保による海自の統制」を挙げている。

海警行動が下令されたケースは過去に3度あったが、いずれも海保の能力を超える事態であった。1999年3月の能登半島沖不審船事案では、海保の巡視船が北朝鮮のものと思われる不審船の逃走スピードに追い付けなかった。2004年11月の中国原子力潜水艦による石垣島周辺海域での領海侵犯事案では水中センサーを保有していない海保では対応できず、2009年3-7月のアデン湾海賊対処時は、海保の後方支援能力が及ばなかった。

保安庁法25条見直しが不可欠

中国の第二海軍である海警が尖閣を奪取しようとする場合には、当然沿岸から武装ヘリコプターや潜水艦から侵入する特殊部隊を併用する可能性が高い。その場合、水上レーダーしか保有していない海保が、対空レーダーや水中のセンサーを装備し、なおかつ米海軍・沿岸警備隊からデーター・リンクでリアル・タイムに戦術情報を得ている海自を統制することが兵理的に正しいことであろうか。

米海軍大学評論(Naval War College Review)の最新号(2020年秋)には「グレーゾーン紛争時代における同盟ジレンマ改善」というタイトルで日米同盟からの教訓が掲載されている。

そこでは、国際法違反と国内解釈(例えば中国が自国の海警法違反を国際法違反とみなす)から、国際法違反/制裁活動→大量破壊兵器関連活動→生命財産被害なしの領土主権影響(例えば無人島への漁民/海上民兵上陸)→生命財産被害ありの領土主権影響→生命損失→武力攻撃へと7段階で事態がエスカレートする様子がグラフで示されている(52頁)。

これを見ると、海警行動から防衛出動に至る途中で統制権を海保から海自に移管するような悠長なタイミングは考えにくいのである。

海保が米海軍や沿岸警備隊及び海自とリアル・タイムで戦術情報を交換し、4者が共同訓練を支障なく行えるようにするには、海上保安庁法第25条で禁じられている軍機能の指揮・統制・通信・情報機材を搭載し、同じく25条で禁じられている軍としての訓練をしてもらわなければならない。