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2018.03.07 (水) 印刷する

プーチンの核軍拡は「弱さ」の表れか 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 ロシアのプーチン大統領が3月1日に行った年次教書演説は、ロシアが開発中の新型戦略兵器などの動画を公開しながら威力を誇示し、「世界中どこでも到達可能な新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発した」「ロシアの最新兵器で米国のミサイル防衛(MD)は無意味になる」と強調した。
 対米強硬路線を改めて示した形だが、演説をよく読むと、米国に対し、ロシアを無視せず、軍備管理交渉に入るよう呼び掛けるメッセージのようだ。

 ●米のNPRに対抗
 演説の目的は第1に選挙向けだろう。年次教書演説は本来、12月に行われるが、今回は異例の3カ月遅れで、3月18日投開票で行われるロシア大統領選挙に向けた選挙公約の形となった。
 前半は内政問題に関するもので内容も地味だったが、後半は一転して好戦的になり、「その過激さに議員らも卒倒した」(コメルサント紙)ほどだった。プーチン氏は、事実上の信任投票となった大統領選を盛り上げるため、国威発揚を狙い、国民の愛国主義に訴えようとしたのだろう。それは、経済・社会政策の不調の裏返しでもある。
 第2に、2月に米国が公表した「核態勢の見直し」(NPR)が限定核使用や小型核の開発・製造を強調したことへの対抗措置だ。大統領は「NPRの一部条項を強く憂慮している」と述べ、米国をけん制した。
 第3に、新型兵器の威力を強調しながら、米国に核軍縮交渉を促す狙いがあった。大統領は演説の最後に、「世界に新たな脅威を作り出す必要はない。むしろ、交渉のテーブルに着き、新たな国際安全保障システムを協議すべきだ」と述べた。米露間では近年、軍備管理協議が行われておらず、ロシアは交渉再開によって核開発競争を防ぎ、ロシアの存在感を誇示したい意向だ。新型核兵器計画は交渉への呼び水ととれる。

 ●日露関係には暗雲
 第4に、ロシアが核大国であることを誇示して、各国に一目置かせる狙いがある。ウクライナ危機以降、ロシアは欧米の制裁を受け、すっかり孤立してしまった。プーチン大統領は、「誰もロシアに耳を貸さなかった。今こそ聞くがいい」と述べたが、それは同時に軍事力以外にアピールできないロシアの焦りを示している。
 ただ、好戦的なプーチン演説に米政府は反発。メルケル独首相も懸念し、直ちにトランプ米大統領と電話協議した。米露・欧露関係はこの演説でさらに険悪の度を増しそうだ。
 一方、プーチン大統領は「ロシア周辺国での米国のMD網整備を無力化する」と述べ、日本が導入する地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」も槍玉に挙げた。河野太郎外相は米国のNPRを強く支持しており、核軍備問題で日本の米国寄り姿勢が鮮明になった。これは、大統領選後に再開される安倍晋三首相とプーチン大統領の日露首脳交渉の先行きには暗雲を漂わせる要因になっている。