公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第501回】北朝鮮にだまされるな

西岡力 / 2018.03.12 (月)


国基研企画委員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 私は昨年9月、北朝鮮が6回目の核実験を成功させた直後から、米国の軍事圧力と国連安保理決議に基づく経済制裁は効果を上げてくるから、「金正恩は自分の命を守るために中身のある交渉に応じるはずだ」(9月4日付「今週の直言」)と書いてきた。ついに、それが実現した。
 しかし、私は同時に、北朝鮮は制裁や圧力で苦しくなったら対話に応じるが、そこでウソをつくのが行動パターンだと指摘してきた。2代前の金日成時代がそうであり、先代の金正日時代もそうだった。

 ●「ウソをつく」がいつものパターン
 独裁者の金正恩氏がトランプ米大統領に会談を申し込み、大統領がそれを受けた。大統領は、米朝首脳会談受諾を直接電話で安倍晋三首相に伝えた。日米首脳は、北朝鮮が具体的な行動をとるまで最大限の圧力をかけていくことで一致した。私の言うところの第1段階が続いているのだが、これまで通りならば第2段階の対話で金正恩氏もウソをつくはずだ。だまされてはならないと、長く北朝鮮問題に取り組んできた安倍首相がトランプ大統領にクギを刺したはずだ。
 実は、米朝首脳会談実現の影の主役は中国だった。北朝鮮の貿易の9割は中国を相手とするものだ。昨年9月以降、中国は国連安保理の制裁をしっかりと履行して北朝鮮から石炭、鉄鉱石、水産物などを買わなくなり、それだけでなく国連制裁の対象ではないコメや砂糖など食料品、鉄製品、建築資材まで売らなくなったという。中国による制裁の影響は大きい。

 ●中国の制裁継続を監視せよ
 「1990年代後半に数百万人の餓死者が出た『苦難の行軍』の時期が始まった時と同じような雰囲気だ」と最近、北朝鮮内部と連絡を取った関係者が次のような驚くべきことを私に語った。
 平壌に近い平城市では昨年12月から餓死者が出始めた。同市では12月から住民の生活困窮が限度を超え、人民班長に毎日全班員の家を見回れとの指令が出た。40~50世帯の班員の家を回ると、死んでいる者が必ず見つかる。老人だけの世帯や両親が商売などのため長期間不在の子供だけの世帯など社会的弱者の家庭で死者が出ることが多い。駅舎でもほぼ毎朝、餓死者の遺体が見つかる。
 市場でのコメの値段は安定しているが、中国に物を売れなくなったため収入を得られない住民が増え、食糧が売れないから値が安定しているだけだと説明された。金正恩氏は人民の生活に対する関心が高く、現状に危機感を持っているという。
 会談には応じるが制裁は緩めないという日米側の今の方針は正しい。しかし、中国がその方針に最後まで同調するかどうかは未知数だ。韓国の文在寅政権の動向だけでなく、中国の対北朝鮮姿勢が変化しないように厳しく監視する必要がある。(了)