公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

佐藤伸行の記事一覧

中国の李強首相が就任後最初の外遊先に選んだのはやはり欧州であった。6月下旬、長年にわたって良好な関係を保つドイツとフランスを訪問した。欧州では、ウクライナ侵略戦争を続けるロシアに好意的態度をとる中国への視線は険しくなっているが、そうした中でも中国は、米欧離間策を進めるため、まず独仏との「変わらぬ交誼」を誇示する必要に迫られた。 李首相が独仏で微笑外交 威圧的ないわゆる戦狼外交は中国外交...

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「アメリカ人は戦いの神、火星から、ヨーロッパ人は美と愛の神、金星から来た」という警句を思い出す。6月に欧州外交評議会(ECFR)が公表した欧州連合(EU)市民に対する世論調査の結果、台湾をめぐって米中の紛争が生じた場合、6割以上が自国の中立維持を支持すると回答したのだという。上記の言葉は、米国のネオコン(新保守主義者)の論客ロバート・ケーガン氏がおよそ20年前、イラク戦争に反対する欧州に皮肉を込め...

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昨年11月のショルツ独首相による「朝貢外交」がまだましに見えるほどの外交的惨事である。今般のマクロン仏大統領の訪中は、台湾への威嚇のレベルを一段と高める習近平中国国家主席の歓心を買うばかりか、中国を鼓舞し扇動するかのような危険なシグナルとなった。 「台湾は欧州の問題ではない」 中国の台湾武力侵略を抑止しようとする関係国の苦心をあざ笑うかのようなマクロン氏の「暴言」を改めてここに掲げる。...

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病膏肓やまいこうこうに入いる―という慨嘆こそふさわしいかもしれない。11月初めのショルツ・ドイツ首相の「北京詣で」である。 昨年のドイツ海軍フリゲート艦の日本寄港や今春のショルツ首相訪日、日独外務・防衛閣僚会合(2プラス2)定例化などによって、伝統的な親中路線に変化が生まれたかに思われたドイツのインド太平洋外交だったが、ショルツ首相は旧態依然と受け止められる対中「朝貢外交」を再開してみせた。...

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北大西洋条約機構(NATO)への加盟を控えてきた北欧フィンランドとスウェーデンが、ロシアの凶暴なウクライナ侵略を目の前に長年の政策を転換し、加盟を目指す見通しになった。この北方拡大によって、NATO圏は北西からもロシアのサンクトペテルブルクまで約150キロの距離に肉薄し、バルト海におけるロシア封じ込めの輪は縮まることになる。ロシアを強く刺激するリスクはあるものの、NATOの抑止力は強化されるわけで...

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ロシアのウクライナ侵攻を眼前にしたドイツは、ようやく長い夢から覚め、ロシアと対峙する覚悟を示した。問題は、その決意がどれほど堅固・持続的で、かつ具体的であるかだ。 ドイツは長年の平和主義が幻想にすぎないことにようやく気づいたと言えるだろう。東西統一後のドイツでは、いずれの政権も多かれ少なかれ、経済関係の強化を通じてロシアが市民社会的国家へと変容するとの期待を抱いていたが、結局ロシア国家の専制...

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現在進行形のウクライナ危機は、米欧間に働く遠心力を改めて印象付けている。ロシアがウクライナに侵攻するのか否か、侵攻するとすればどのような形をとるのかはなお予断を許さないが、現時点ではっきりしたのは、欧州に対する米国の勢威が明らかに衰えているという現実であろう。 米欧間の溝は、伝統的な欧州同盟国を軽視したトランプ政権によってもたらされたと思いがちだが、「アメリカ・イズ・バック」と宣言したバイデ...

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ウクライナ国境地帯にロシア軍の大軍が集結している。その兵力総数は17万5000人に上るとみられ、ロシア軍がウクライナに侵攻し、全土を掌握する作戦を企図していると懸念されている。バイデン米大統領は去る12月6日、ロシアのプーチン大統領とオンラインで会談し、ウクライナに侵攻した場合は「厳しい制裁」に直面すると警告した。ただ同時に、話し合いを継続することで両大統領は一致しており、外交解決を図ろうという形...

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追手門学院大学教授 佐藤伸行    中国に対する危機意識があまりにも希薄ではないかと批判されていた欧州が、ようやく目を覚ましつつある。  5月初めの主要7カ国(G7)外相会議共同声明は中国の軍事的圧力が強まる台湾情勢に言及し、欧州が中国牽制で日米と足並みを揃えた。それに続き、インド太平洋地域の戦略的重要性を再認識したフランスは日米と共に離島防衛の合同演習を実施した。欧州連合(E...

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 ドイツ政府は、今年8月にも海軍のフリゲート艦1隻をインド太平洋地域に派遣する計画を明らかにした。新疆ウイグル自治区における中国のジェノサイドに対して、欧州連合(EU)が制裁を科したことと相俟って、ドイツ艦艇のインド太平洋派遣はメルケル政権が覚悟を決めて「中国への牽制」に乗り出したものと一応は解釈される。だが、ドイツの思惑はそれほど直球的ではないし、派遣計画は実施までに微妙に姿を変えるかもしれない...

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 新型コロナウイルス感染拡大のなかで悪化した国のイメージを糊塗するため、中国の王毅外相が8月下旬に行った欧州5 カ国歴訪は、惨憺たる結果だった。 王毅外相は、「一帯一路」に参加しているイタリアを皮切りとし、中国との蜜月を保ってきたメルケル首相率いるドイツを歴訪の締めくくりに選んだが、いずれの国でも香港、台湾、ウイグル問題などで厳しい批判にさらされ、欧州との良好な関係を世界に喧伝しようとした中...

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 あまりに遅きに失した感があるが、中国への過剰なまでの配慮が目についていたドイツのメルケル政権内で、対中政策の見直しを求める声がようやく高まってきている。 やや旧聞に属するが、メルケル内閣を支える連立与党・社会民主党(SPD)の連邦議会議員団が、新たな対中政策のポジションペーパーをまとめたことは注目していいだろう。中国に対して寛容すぎる態度を改め、中国に変容を促していく決意を宣言する内容であ...

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追手門学院大学教授 佐藤伸行    新型コロナウイルスが猛威を振るっていた4月、ドイツ最大の日刊大衆紙ビルトの編集局長が習近平中国国家主席に公開書簡を送り、話題になった。公開書簡は、ウイルスの全世界への拡大は中国に責任があると追及する内容で、「習主席よ、あなたは監視することで国民を統治しているが、なぜあれほど危険な武漢の海鮮市場を監視できなかったのか」「コロナが漏出した疑いのある...

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 新型コロナウイルス禍が猖獗を極める欧州から、統合の理念の尊さを説く声を聞くことはまず、なくなった。14世紀の黒死病(ペスト)が欧州社会を激変させたように、コロナ危機収束後の欧州が以前と同じ姿を保っているとは思えない。「欧州連合(EU)はコロナ危機を生き延びることができるのか」と問う声もかまびすしくなってきた。  5年前、百万人に近い難民を受け入れるという大胆な政策を決断し、保守政党の党首であり...

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 第5世代移動通信システム(5G)構築に中国の華為技術(ファーウェイ)を参入させるか否か、欧州で議論が続いている。こうした中、英国のジョンソン政権は華為の部分的参入を容認する方針を打ち出し、華為排除を求めている米国やこれに同調している日本を驚かせた。欧州連合(EU)から離脱し、これから苦難の道を歩む英国にしてみれば、経済上、今の時点で中国との関係悪化の引き金を引くのは得策ではないと判断したのだろう...

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 2020年1月末をもって、英国は遂に欧州連合(EU)から離脱する。英国が持つ「歴史の運動法則」からすれば、それは本来の姿への回帰であり、欧州共同体(EC)時代も含めれば、過去ざっと半世紀に及ぶ英国の欧州大陸への帰属は、むしろ例外的な一時期だったと言える。  ブレグジット(英国のEU離脱)は、欧州大陸の主導権を握る独仏枢軸の重力圏から脱した英国が、伝統的なバランス・オブ・パワー(勢力均衡)戦略へ...

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