冨山泰の記事一覧
米国の戦前への回帰を警戒せよ 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
後世の歴史家が2024年の米大統領選挙を振り返る時、第2次世界大戦後に米国が民主主義世界のリーダーだった時代の終わりを確定する転換点だったと位置づけるのではないか。トランプ共和党候補(前大統領)のハリス民主党候補(副大統領)に対する完勝は、「米国第一」を外交の特徴とする「トランプ現象」が一時的なものではなく、トランプ政権の4年間の空白にもかかわらず、米国に深く根付いていることを示した。 孤立...
パクス・アメリカーナの終わり 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
米共和党大統領候補に指名されたトランプ前大統領(78)は、年齢が自身の半分のバンス上院議員(39)を副大統領候補に選んだ。仮に11月の大統領選挙で大方の予想通りトランプ氏が当選すれば、「トランプ氏のクローン」(バイデン大統領)と呼ばれるバンス氏は次回2028年の選挙で共和党大統領候補となる可能性が大きい。憲法の規定により、トランプ氏の3選出馬はないからだ。これは、共和党の外交路線の基調として、トラ...
【第1119回】日本もトランプ政権復活に備えよ
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 今年の米大統領選挙で共和党候補としての指名をほぼ確実にしたトランプ前大統領が、防衛費をきちんと払わない北大西洋条約機構(NATO)同盟国への攻撃をロシアに促す趣旨の発言をして、物議を醸している。11月の本選挙で仮に当選すれば、日米同盟の在り方にも注文を付けてくる可能性が否定できず、日本としてもあらゆる事態を想定して対応を練っておく必要があるだ...
【第1093回】米中関係「修復」にだまされるな
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 1979年の国交正常化以降で最悪と言ってよい米中関係は、米サンフランシスコ近郊における11月15日のバイデン米大統領と習近平中国国家主席の首脳会談で、偶発的な軍事衝突を回避する軍同士のハイレベル対話再開に合意するなど、当面の緊張を緩和した。しかし、うわべの関係修復にだまされてはならない。米中関係を一気に緊迫させかねない台湾総統選挙が2カ月後に...
【第1056回】空約束なら信用失う対ウクライナ武器供与
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 北大西洋条約機構(NATO)に対する岸田文雄首相の入れ込みようが目立つ。リトアニアの首都ビリニュスで先週行われたNATO首脳会議に「パートナー国」日本のリーダーとして参加した岸田首相は、ロシアとの戦争を戦うウクライナがNATO加盟を認められるまでの間、主要7カ国(G7)がそれぞれウクライナに軍事を含む積極的な支援を与えるという内容のG7の共同...
【第1053回】どうやって「核の傘」への信頼を高めるか
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 米国が日本に差し掛ける「核の傘」の信頼性を高めるための日米実務者レベルによる定例の「拡大抑止協議」が6月末に開かれ、両国政府により協議内容がこれまでより詳しく公表された。広報の改善はないよりましだ。しかし、それだけでは核の傘や拡大核抑止に関する日本国民の疑問を解消することにならない。 ●ヒーリーの定理 核抑止の専門家が「ヒーリーの...
【第999回】中国の不当なビザ発給停止
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 中国発の新型コロナウイルス拡散の脅威が再び高まる中で、日本の水際対策強化に対する中国の報復措置は、二重の意味で不当である。第一に、中国の日本人へのビザ(査証)新規発給停止は、日本が中国からの入国者に入国時検査と陰性証明書提示を義務付けたことに対するもので、著しくバランスを欠く。第二に、中国の報復措置の対象は日本と韓国だけで、同様の水際対策を取...
スナク英政権の対中強硬姿勢は本物か 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
減税計画が金融市場の暴落を招き、在任わずか50日で辞めたトラス英首相の後任に、今年夏の与党保守党の党首選挙でライバルだったスナク元財務相が就任した。スナク氏は英国初のインド系首相となり、英国の植民地だったインドでもてはやされているようだ。しかし、インドや日本の安全保障上の脅威である中国に対するスナク氏の姿勢には疑問が付きまとう。筋金入りの対中強硬論者だったトラス氏とは違う。 1年前に融和演説...
【第975回】米安保戦略が試す岸田政権の本気度
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 米政府は10月12日、バイデン政権の外交・安全保障政策の基礎となる「国家安全保障戦略」を公表した。肝心の中国政策について、一部メディアは代わり映えしないと評したが、1年半前の「暫定国家安全保障戦略指針」に比べると表現がかなり強まっており、中国との「戦略的競争」のレベルが上がったことを反映している。 ●中国の「意思と能力」を警戒 今...
【第970回】一般献花者の思いを伝えないマスコミ
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 9月27日の安倍晋三元首相の国葬で、一般献花の列に並んだ。国葬会場の東京・日本武道館近くの公園に設けられた献花台にたどり着くまでに3時間、その前に献花台への最寄り駅とされた地下鉄駅前の花屋さんで花を買うのに1時間半、花を買ってから列の最後尾に着くまでに20分かかり、実際に献花できるまで合計5時間の長い道のりだった。 参列者は普段着から喪服...
対中政策で英と連携を深めよ 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
トラス英新政権が発足した。基本的には米英同盟を重視し、欧州連合(EU)とは一定の距離を置き、ウクライナを侵略したロシアと対決し、インド太平洋への関与を深め、中国の台頭に警戒を強めたジョンソン前政権の外交・安全保障政策を継承すると見られる。そうした中で、トラス氏は中国をロシアと同等の脅威に「格上げ」する意向との報道もあり、日本が対中政策で新政権と連携を深めることができそうだ。 トラス新政権、「...
中国のカンボジア軍事進出の狙い 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
中国がカンボジア海軍基地の改修に着手した。2年後に完成すれば、その一部を中国海軍が使用する見込みで、中国海軍にとって、アフリカ北東部のジブチに続いて2カ所目、インド太平洋地域では初の恒久的な海外拠点となる。中国の軍事拠点がインド太平洋地域でこれ以上増えないように、日本は米国、オーストラリアなどと調整しながら、域内途上国への援助戦略を再構築しなければならない。 「佐世保」の半分の広さ 6...
中国軍の南太平洋進出に警戒を 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
ロシアのウクライナ侵略戦争に世界が気を取られている隙に、中国が南太平洋への軍事進出の一歩を踏み出した。中国の恒久的な軍事拠点が南太平洋に構築されれば、特に台湾有事の際に米軍やオーストラリア軍が台湾方面へ急行するのを妨害されかねないとして、米豪両国は中国の動きに警戒を強めている。日本の安全保障にも直結する問題なので、日本は米豪などとの政策調整を早急に具体化する必要がある。 ソロモンの軍事拠点化...
【第895回】米国の「アジア重視」見直しに備えよ
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 ロシアのプーチン大統領はウクライナ軍事侵攻で、冷戦後の欧州秩序を破壊するため武力行使をためらわないことを行動で示した。プーチン氏がロシアの独裁者にとどまる限り、米国は欧州の北大西洋条約機構(NATO)同盟国の安全保障に一層の力を注がざるを得ないだろう。少なくともバイデン政権の残り3年間、台頭する中国への対処を目的とする「アジア重視」政策は、修...
【第874回】日米安保体制に影響しかねないウクライナ危機
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 ウクライナ問題をめぐりロシアと西側の緊張が続く中で、ロシアが米国に突き付けた要求の中に、日本の安全保障を脅かしかねないものが含まれていることを見落としてはならないだろう。バイデン米政権がロシアの要求を丸飲みすることはなさそうだが、それと気付かないまま日本の利益を損ねるような譲歩をしないように、わが国は交渉の行方に注意を払っていく必要がある。 ...
【第859回】戦略思考と縁遠い民主主義サミット
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 バイデン米大統領が12月初めに主宰する「民主主義サミット」の招待国が発表された。台湾が入っている一方で、米中両国が影響力拡大でしのぎを削る東南アジアをはじめ、中東、アフリカ、中央アジアなどの多くの国が招かれていない。中国やロシアの専制主義に反対する国々を結集するという戦略的思考とは縁遠い会議のようである。 ●排除対象に同盟・友好国も ...
【第855回】気掛かりなバイデン氏の対中政策の今後
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 バイデン米大統領と習近平中国国家主席による11月16日(日本時間)の初のオンライン首脳会談は、米中間の競争が武力衝突に発展しないようにするには首脳レベルの関与と意思疎通が必要、という米国の呼び掛けで実現した。対立する問題で具体的合意を達成することは目的でなかった。首脳会談をきっかけに、バイデン大統領が対中強硬姿勢の修正へ動かないか注視する必要...
【第846回】日本は極超音速ミサイルの脅威に目覚めよ
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 米国防総省が11月3日発表の報告書で明らかにした中国の軍事力のうち、日本の安全保障にとりわけ重大な影響を及ぼすのは、現在のミサイル防衛システムで迎撃できない極超音速ミサイルが日本本土を射程内に収める形で配備されたことである。日本は、核搭載可能なこの新型ミサイルの脅威に目覚め、速やかに対策を講じねばならない。 ●中国が台湾対岸にDF17...
【第838回】台湾海峡の緊張に目をつぶる岸田政権
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 10月初め、中国が多数の軍用機を台湾近くに飛来させた。台湾海峡の平和と安定を損ねる中国の行動に対し、日本政府は反応が鈍く、毅然とした態度を取らなかった。これでは、「中国に対して主張すべきは主張する」(所信表明演説)という岸田文雄首相の言葉がうつろに響く。岸田新政権の中国外交は先が思いやられる。 ●驚くべき日米の反応の違い 台湾南西...
【第833回】次期首相はクアッドの一層の進化を図れ
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 インド太平洋地域の主要な民主主義国による安全保障協力の枠組み「クアッド」(日米豪印4カ国で構成)が初の対面による首脳会議を24日ワシントンで開いた。専制国家・中国への対抗を念頭に置きつつ、新型コロナウイルスや気候変動といった非軍事的な脅威への対応、新興技術の育成を含む経済安全保障、開発途上国のインフラ整備などが今後、クアッドの協力の柱となる方...
アフガンは依然テロ組織の温床に 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
8月26日、アフガニスタンからの脱出を希望する民間人でごった返す首都カブールの国際空港付近で起きた自爆テロで、警備の米兵13人を含む200人近くが死亡した事件は、アフガニスタンが依然として国際テロ組織の温床であることを立証したもので、アフガニスタンからの米軍撤退の正当性に重大な疑問を投じた。内外の批判にもかかわらず米軍撤退を強行したバイデン政権にとって、テロ攻撃の発生はアフガニスタンの旧支配勢力タ...
竹島を地図上から消した五輪組織委 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
東京五輪・パラリンピック組織委員会の公式ホームページの地図に竹島が日本領土のように表示されているとして、韓国が日本政府に削除を要求している問題で、聖火リレーの経路を示したこの地図に目を凝らしたが、竹島は肉眼で見えない。韓国の主張は明らかに言いがかりだ。 しかし、真の問題は別のところにある。2年前に韓国から抗議された際、竹島は地図上にはっきり表示されていたようだから、その後に組織委が地図を差...
【第764回】ワクチン外交に勝てない日本の悲劇
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 中国が自ら開発した新型コロナウイルス・ワクチンを開発途上国などにばらまく「ワクチン外交」を積極的に展開している。欧米のワクチンを入手できない諸国がこれに飛びついており、コロナ禍がうまく終息すれば中国の国際的影響力が飛躍的に拡大する結果を招きかねない。 中国外務省によると、2月8日時点で中国が国産ワクチンの無償供与を予定している国は53カ国...
新政権で異彩放つケリー氏の対中政策 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
バイデン新大統領の就任を翌日に控えた1月19日、米上院で主要閣僚の指名承認公聴会が一斉に行われ、新閣僚はいずれも中国に対する強硬な姿勢を表明した。しかし、バイデン政権がトランプ前政権とさほど違わない中国政策を打ち出すと考えるのは早計だ。新政権の具体的な行動を見守る必要がある。 閣僚は厳しい対中姿勢で一致 国務長官に指名されたアントニー・ブリンケン元国務副長官は公聴会で、中国共産党政権...
【第756回】「自由で開かれたインド太平洋」の維持が重要
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 1月20日のバイデン米大統領就任を前に、次期政権でアジア政策を統括する「インド太平洋調整官」という幹部ポストがホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)に新設され、カート・キャンベル元国務次官補の起用が決まった。次期政権の上層部で数少ないアジア通として、キャンベル氏には、法の支配に基づく地域秩序の構築を目指す「自由で開かれたインド太平洋」戦略...
トランプ後の日米同盟を考える 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
1月6日、トランプ米大統領の支持者が米議会議事堂に乱入、バイデン次期大統領の当選確定を阻止しようとした暴力事件で、共和党の議員や政府高官のトランプ離れが始まった。暴動を扇動したトランプ氏の党内での求心力は、少なくとも中央政界では急速に低下しつつある。 議事堂内の暴徒が警察によって制圧された後、アリゾナ、ペンシルベニア両州の大統領選挙結果に対する一部共和党議員の異議申し立てが表決に付され、上...
中国を喜ばせた米国政治の劣化 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
トランプ米大統領の1日も早い回復を願うが、トランプ氏の新型コロナウイルス感染により10月15日の第2回大統領候補討論会が中止になりそうなのは、米国の民主主義にとって良いことである。そう思えるほど、9月29日の第1回討論会はひどかった。世界の自由民主主義陣営のリーダー、米国の政治の劣化に、中国がほくそ笑んでいる。 大混乱の大統領候補討論会 通信社の特派員として1980年のカーター大統領...
【第716回・特別版】「核持ち込み」をタブー視するな
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 中国が西太平洋の米軍事拠点グアムを中国本土から直接攻撃できる中距離弾道ミサイル(IRBM)DF(東風)26を急速に増強している。米国はこれに匹敵するミサイルを保有しておらず、西太平洋における米中ミサイル戦力の不均衡が拡大している。日本は中国の軍事的脅威に対抗する民主主義陣営の一員として、米国が開発する新しい中距離ミサイルの日本国内への配備受け...
対中関与政策に未練残すバイデン陣営 冨山泰(国基研研究員兼企画委員)
米民主党大統領候補に指名されることが確実なバイデン前副大統領の陣営が対中政策で、トランプ政権とどちらが強硬かを競っている。トランプ政権が中国との関与政策は失敗だったと断じ、中国共産党体制そのものが諸悪の根源であるとして、米中対立をイデオロギーの次元まで高めたのに対して、バイデン陣営は関与政策に未練を残し、体制批判にまで踏み込んでいない。11月の大統領選の結果によっては、米国の対中政策の基調に逆戻...
【第676回】リーダーなき「コロナ後」世界に備えよ
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 新型コロナウイルスとの闘いに世界中が没頭する中で、今後の国際情勢を左右する最大の要素は、世界最多の感染者と死者を出した超大国の米国がどのように変わるかである。考察すべき点は二つある。一つはウイルス感染の大流行が半年後に迫った米大統領選挙に及ぼす影響であり、もう一つは選挙後の政権下で米国が世界のリーダーとして復活する見通しの有無である。 ...
【第649回・特別版】看過できないWSJのゴーン擁護論
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 米有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルが、保釈中に日本から逃亡した日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告を擁護する社説を立て続けに掲載した。①日本の司法制度は不当なので国外逃亡を非難できない②ゴーン被告の記者会見での無罪主張には説得力があった―とする内容だ。同紙は国際的影響力が大きいだけに、看過できない。 ●社説で国外逃亡を正当化 ...
RCEPには「インド太平洋」の表記を 冨山泰(国基研研究員兼企画委員)
日本政府が、来年にも調印が予定される東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定への不参加を表明したインドに対して、猛烈に翻意を働き掛けている。担当閣僚の梶山弘志経済産業相が12月10日にニューデリーでインドの商工相と会談したのに続いて、15~17日には安倍晋三首相が年次首脳会談のため訪印し、モディ首相に交渉への残留を求める。 ●インド誘った日本の思い そもそも、東南アジア諸国連合(A...
日本も看過できない「NATOは脳死」発言 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
フランスのマクロン大統領が英誌エコノミスト(電子版、11月7日)とのインタビューで、米欧間の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)は今や「脳死」状態にあり、米国を当てにできないので、欧州は独自の軍事戦略と軍事能力を持つべきだと言明した。同盟関係を重視しないトランプ米大統領への絶望感を率直に表明したもので、フランスと同じく米国の同盟国である日本にとっても、無視できない問題提起となっている。 ...
ソロモンを中国が軍事拠点化 冨山泰(国基研研究員・企画委員)
南太平洋の島国ソロモン諸島が9月に外交関係を台湾から中国に切り替えた直後、中国国営企業が同諸島の島一つを丸ごとリースする契約を地方政府とひそかに結んでいたことが分かった。この島には天然の深海港があり、中国海軍がここに足場を築けば、同盟国である米国とオーストラリアの両国軍の連携が分断され、米国の太平洋軍事戦略に重大な支障が及ぶ恐れがある。 ●狙いは米同盟軍の分断 リース契約を結んだのは...
【第628回】香港デモを支援しない異質の国日本
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 中国が約束通り香港に高度の自治を認め、香港住民の大規模デモを暴力で鎮圧しないよう求めることは、8月の先進7カ国(G7)サミットの合意だったはずだ。英政府は中国の意を体した香港警察によるデモ隊への実弾発射を非難する外相声明を出し、米下院はデモ隊の民主化要求を支援する法案を全会一致で可決した。しかし、日本政府の反応は煮え切らず、香港当局による弾圧...
【第622回】激化する南太平洋の覇権争い
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 南太平洋の島国、ソロモン諸島とキリバスが9月、相次いで台湾との外交関係を断絶し、中国と国交を樹立した。中国は札束攻勢の成功に味を占め、台湾を国際的に孤立させる動きをさらに強めそうだ。地政学的には、中国の南太平洋進出に拍車がかかることで、この海域を舞台とする米中両国の覇権争いは激しさを増すだろう。 ●島しょ国が相次ぎ対中国交 太平洋...
【第616回】日本の韓国政策の対米説明が不十分
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 米政府は、韓国の文在寅政権が日本との軍事情報保護協定(GSOMIA)の廃棄方針を決め、日韓対立を軍事・安全保障分野に波及させたことを強く批判する立場を鮮明にした。ただ、悪化する日韓関係全般について、トランプ政権や有力議員が日本の主張を十分に理解しているとは言い切れず、日本政府としては米国の理解を深める一層の努力が求められる。 ●韓国の...
米英関係の変質から学ぶべきこと 冨山泰(国際問題研究者)
米英関係は第2次世界大戦後、「特別な関係」と呼ばれ、緊密な同盟関係の手本のように思われてきたが、最近の駐米英国大使の辞任騒動で両国関係の変質が顕在化した。トランプ米大統領と気脈を通じるボリス・ジョンソン氏が英国の新首相に就任したが、両国が緊密な関係を簡単に取り戻せるとは思えない。 ●揺らぐ「特別な関係」 米英を公の場で「特別な関係」と最初に呼んだのは、英国の首相だったチャーチルである...
【第611回】地域支配狙う中国との「共存」は可能か
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 来年の米大統領選挙で民主党がホワイトハウスを奪還すれば新政権の外交・安全保障チームの中核を占めそうな元政府高官2人が、中国との「共存」を呼び掛ける論文を米外交専門誌フォーリン・アフェアーズ(2019年9~10月号)に連名で発表した。トランプ政権と議会の超党派議員が中国への強硬姿勢を堅持する中で、中国との対決を嫌う政治勢力が巻き返しに乗り出した...
【第596回】米インド太平洋戦略の柱に同盟関係強化
国基研企画委員兼研究員 冨山泰 シャナハン米国防長官代行がシンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で米国のインド太平洋戦略を発表し、アジア地域への関与継続と同盟関係を重視したマティス前長官の基本路線を継承することを表明した。シャナハン氏は議会の承認を経て正式に国防長官に就任する見込みで、同盟国からの信頼が厚かった前長官の路線の継承は、日本はじめインド太平...