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冨山泰

【第716回・特別版】「核持ち込み」をタブー視するな

冨山泰 / 2020.09.07 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 中国が西太平洋の米軍事拠点グアムを中国本土から直接攻撃できる中距離弾道ミサイル(IRBM)DF(東風)26を急速に増強している。米国はこれに匹敵するミサイルを保有しておらず、西太平洋における米中ミサイル戦力の不均衡が拡大している。日本は中国の軍事的脅威に対抗する民主主義陣営の一員として、米国が開発する新しい中距離ミサイルの日本国内への配備受け入れを真剣に検討する必要がある。

 ●中国の「グアム・キラー」が急増
 DF26は通常弾頭と核弾頭のどちらも搭載でき、射程4000キロで、グアムの米軍基地や付近の米軍艦艇を攻撃可能なため「グアム・キラー」と呼ばれる。9月1日に公表された米国防総省の年次報告書「中国の軍事・安全保障動向」(2020年版)によると、中国のDF26保有数は発射台200基となり、2019年版の80基から急増した。2018年版では16~30基だったから、年に2~3倍のペースで増えていることが分かる。
 中国軍が同国沿岸域における連続的な軍事演習の一環として、8月26日に中国本土から南シナ海へ撃ち込んだミサイルは、DF26と、それより射程の短い対艦ミサイルDF21Dだったと見られている。DF21Dは在日米軍基地を脅かす準中距離弾道ミサイル(MRBM)DF21(通常弾頭型と核弾頭型がある)を改造した射程1500キロの通常弾頭型のミサイルで、「空母キラー」の異名を取る。両ミサイルの発射実験は南シナ海や西太平洋に展開する米軍への威嚇であり、米中間の軍事的緊張を高めた。
 国防総省報告書によれば、DF26を含む射程500~5500キロの地上発射ミサイルの保有数(弾道ミサイルと巡航ミサイルの合計)は、発射台が700基、ミサイル本体は少なくとも1250発とされる。米国は昨年8月に失効した米ロ間の中距離核戦力(INF)全廃条約により、この射程の地上発射ミサイルを通常弾頭型も含めて全面的に廃棄しており、現在の配備数はゼロである。

 ●シュミットの決断に学べ
 INF条約の失効に伴い、米国はこの射程の弾道ミサイルと巡航ミサイルの新たな開発に着手している。米国務省のビリングスリー大統領特使は8月16日付の日本経済新聞とのインタビューで、米国が開発中のミサイルの配備先は日本も候補になるとの見方を示した。
 冷戦時代の1970年代末、当時の西独のシュミット首相は、核搭載可能なソ連の中距離弾道ミサイルSS20の配備により東西欧州の戦力不均衡を発生させてはならないとして、北大西洋条約機構(NATO)が西欧に同等の能力を持つ弾道ミサイルと巡航ミサイルを配備するとともにソ連と核軍縮交渉に入る「二重決定」を主導し、ミサイルの多くを西独に受け入れる決断をした。その決断が米ソの中距離ミサイルの相互全廃、すなわち1987年のINF条約の締結につながった。
 「ポスト安倍」の日本の指導者はシュミットのような決断を迫られる。その際、米国の新しい中距離ミサイルが核搭載可能なら、日本は核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則を修正し、「核持ち込み」を容認する必要がある。それが現在の国際環境の下で、日本が取るべき立ち位置であろう。(了)