公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第715回】「菅政権」に望む中国への毅然たる態度

有元隆志 / 2020.09.07 (月)


産経新聞正論調査室長兼月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 安倍晋三首相の退陣表明に伴う自民党総裁選は菅義偉官房長官の圧勝が予想されている。「菅政権」には、中国・武漢発の新型コロナウイルス感染防止と経済対策に取り組むことはもちろんだが、米国が中国の脅威に対応していく構えを強めるなか、日本としても米国との同盟関係を軸に、自由主義、民主主義を中心とした国際秩序を支える一員としての役割を一層果たすことを望む。

 ●二階氏の影響力を排せ
 菅氏勝利の流れをいち早くつくったのは自民党の二階俊博幹事長である。老練な政治家としての面目躍如であり、幹事長留任との見方が強い。一方で、二階氏は数千人を率いて「北京詣で」をし、習近平国家主席と面会した「媚中派」でもある。中国側はかりそめの笑顔を見せているに過ぎない。その証拠に、今年に入っても中国公船は毎日のように尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域への侵入を繰り返している。菅氏は官房長官としての記者会見で「極めて深刻に考えている」と述べ、危機的な状況を認識してきた。
 菅氏は総裁選政策集で「国益を守る」として、「我が国の安全保障環境が一層厳しくなるなか、機能する日米同盟を基軸とした外交・安全保障政策を展開していく」と明記した。安倍首相が唱えた「自由で開かれたインド・太平洋を戦略的に推進する」とも強調した。同時に「中国をはじめとする近隣国との安定的な関係の構築」を図るとした。近隣国との良好な関係は望ましいことに違いないが、日本の領土を守るためには、二階氏らが抵抗したとしても、尖閣周辺の海洋調査など実効支配の強化につながる具体的な措置を早急に進めることが求められる。もはや、言葉だけの「遺憾砲」は通用しない。
 中国では新疆ウイグル自治区、チベット、香港、そして内モンゴル自治区で、中国共産党政権によって人権が蹂躙じゅうりんされている。日本としても等閑視することはできない。習近平主席の国賓としての来日は正式に中止すべきだ。

 ●拉致解決、憲法改正を最優先課題に
 菅氏には安倍首相が実現できなかった政策、なかでも北朝鮮による拉致問題と憲法改正を最優先事項として取り組んでほしい。菅氏は議員当選当初から北朝鮮問題に関わってきた。当選2回時には、不正送金や工作員への指令など対日工作活動に活用されていた疑いが強い北朝鮮貨客船「万景峰号」の入港を禁止する議員立法を主導した。圧力を強めつつ、機会をとらえて北朝鮮との対話に臨み、拉致問題解決を目指すべきだ。
 菅氏はこれまで憲法問題で積極的に発言することは少なかったが、憲法改正に慎重な公明党と支持母体の創価学会に太いパイプを持つ。憲法改正は安倍首相が悲願としながら実現できなかった。どんなに困難であろうと、突破力で事態を打開する菅氏の真骨頂を見せることを期待する。(了)