核廃絶は人類の究極の目標であり、理想である。しかし、どれほど核廃絶を唱え続けても、核弾頭が増加しているのが現実の世界である。使用可能な核弾頭は2018年以降増加に転じ、現在、世界全体で9615発となった。中国はこの7年間で360発増加させ600発、北朝鮮は35発増やし50発を保有している。米国防総省は「中華人民共和国の軍事・安全保障動向に関する年次報告書(2024年)」において、「(中国は)台湾での軍事作戦で敗北し、中国共産党体制の存続が脅かされる場合は、核兵器の先制使用を検討するだろう」と核使用の可能性を指摘している。
●対日核攻撃の抑止が政治の責務
異常なまでの核軍拡を続ける中国が、日本を含む地域で核を使用する可能性が指摘される中、日本の政治もメディアも、この現実から目を背け、一向に核抑止に関する議論をしようとしない。
石破茂首相は8月6日、広島平和記念式典において「『核兵器のない世界』に向けた国際社会の取り組みを主導することは、唯一の戦争被爆国である我が国の使命」と誓った。核廃絶に向けた誓いを否定するものではない。しかし、日本国民の命を守る責務を有する首相に求められることは、核の脅威から日本を確実に守る抑止力、すなわち「二度と日本に核を撃たせない」態勢の強化である。この核抑止力の強化のために日本の世論を主導することがトップリーダーの責務ではないのか。
●非核三原則の見直しは必至
トランプ米政権は、海上発射型核巡航ミサイル(SLCM-N)搭載艦の開発を進めており、2030年代の配備を予定している。このいわゆる「核トマホーク」が搭載された潜水艦あるいは水上艦は、いざという時には日本を核の脅威から守る役割があるものと思われる。
核搭載艦配備に当たって、米国からこれら核搭載艦の補給・整備、乗員の休養のため、日本への寄港を求められた際、我が国の非核三原則のうち「持ち込ませず」は大きな障壁となる。日本を守るための核搭載艦の寄港が認められない場合、米国が日米同盟そのものの意義を疑問視することは明らかである。このようなことも想定した議論は最低限避けて通れない。
米国一国のみでは中国を抑止できなくなる日が近づきつつあることに加えて、中国、ロシア、北朝鮮の核保有3か国を同時に抑止することが困難であることが、米国で再三にわたり指摘されている。広島と長崎に原爆が投下されてから80年が経つこの8月、いつまでも核の議論から逃避できるほど日本の置かれた状況は甘くないことを重ねて指摘したい。(了)