ロシアのプーチン大統領はウクライナ軍事侵攻で、冷戦後の欧州秩序を破壊するため武力行使をためらわないことを行動で示した。プーチン氏がロシアの独裁者にとどまる限り、米国は欧州の北大西洋条約機構(NATO)同盟国の安全保障に一層の力を注がざるを得ないだろう。少なくともバイデン政権の残り3年間、台頭する中国への対処を目的とする「アジア重視」政策は、修正を強いられるのではないか。
●ウクライナ侵攻で第2次冷戦へ
米欧は、米ソ冷戦の終焉から30年以上たって、ソ連の後継国家ロシアとの間で「第2次冷戦」または「新冷戦」が始まったと見なした。
欧州情勢の激変にいち早く反応したのがドイツで、軍事的貢献に消極的だった戦後の防衛政策を大転換し、NATOの目標値通りに国防費を国内総生産(GDP)の2%以上に引き上げ、これまでためらっていたウクライナへの武器供与も実施すると発表した。ロシアへの依存度が高かったエネルギー政策も改め、ロシアの天然ガスをバルト海の海底を通してドイツへ運ぶ完成済みのパイプライン「ノルドストリーム2」を稼働させないことを決めた。
バイデン政権は昨年3月に発表した「暫定国家安全保障戦略指針」で、中国を「国際システムに持続的に挑戦するため自らの力を結集できる唯一の競争相手」と位置付けた。しかし、ロシアについては「世界的な影響力を高め、国際舞台で混乱を起こす役割を演じようと決意している」と記し、ロシアを単なる「かく乱」要因のように扱った。
バイデン政権の正式な「国家安全保障戦略」はウクライナ情勢の激変で書き直しが必要になり、公表が遅れているが、その内容はロシアをもっと危険視するものになるだろう。
●インドを離反させるな
米国が当面、国際安全保障政策の重点をアジアから欧州へ戻すか、アジアと欧州に均等に割り振る可能性が出てきた今こそ、日本は国家安全保障を米国に頼ってきた戦後の防衛政策を見直す必要がある。その方策の一つは、国基研が3月4日の意見広告で提案したように、日本が防衛政策をドイツ並みに転換し、戦後のタブーや不合理な自己規制を捨て去ることだ。
もう一つは、米国の関心をアジアにとどめるとともに、インド太平洋で中国への懸念を共有するオーストラリア、インドなどとの連携を一層深めることだ。日本が5月にも東京で開催する日米豪印4カ国の安全保障対話「クアッド」の首脳会議がそのよい機会となる。インドはロシアと伝統的な友好協力関係を持ち、中印国境の有事の際にロシアには少なくとも中立を保ってほしいという思いもあって、ウクライナ問題でロシア非難に加わらない。しかし、インドは中国に対抗する機構として地歩を固めつつあるクアッドの不可欠の一員であり、対ロシア政策の違いでインドを離反させてはならない。(了)
第91回 ウクライナ情勢の3つのシナリオ
米国の見方①ロシアが軍事占領②停戦して双方妥協③プーチン失脚、を紹介。③以外だと米国の戦略がアジア重視から欧州正面に変わる可能性。