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今週の直言

有元隆志

【第894回】「非核三原則」では国を守れない

有元隆志 / 2022.03.07 (月)


国基研企画委員・産経新聞月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 核によるどう喝を許してはならない。仮に恫喝されたとしても、国を守れる態勢をつくり上げるのが指導者の役割だが、残念ながら岸田文雄首相からはその気概が見えてこない。
 岸田首相は3日の記者会見で、「(持たず、つくらず、持ち込ませずの)非核三原則を堅持することによって国民の命を守れるか」と聞かれると、「自らの防衛力と日米同盟の抑止力で日本の安全を守ってきた。現状の中で国民の命や暮らしは守れると信じている」と強調した。
 岸田首相に問いたい。欧州はロシアの核の脅威にさらされているが、日本はロシアに加えて核保有国である中国、北朝鮮にも囲まれている。いずれも専制主義国家であり、今回のプーチン大統領のように核兵器の使用をちらつかせてきた時にどう対応するのか。単に「信じている」というだけでは説得力を持たない。

 ●時代の変化を国民に説け
 日本の究極的な安全保障を米国の核による拡大抑止に頼っていることを考えると、「非核三原則」のうち特に「持ち込ませず」は論理的に成り立たない。加盟5カ国に米国の核弾頭を配備する「核の共有」(ニュークリア・シェアリング)によって拡大抑止を担保した北大西洋条約機構(NATO)と比べ、日本は拡大抑止の実効性を十分に検証してこなかった。
 米国の「核の傘」に安住し、「唯一の被爆国」「非核三原則」を唱えるだけでいい時代は終わったことを国民に説明する責務が岸田首相にはある。
 2021年2月、ヘーゲル元米国防長官らが共同議長を務めた「核拡散阻止と核の保証」と題する報告書では、米国は「核の保証」を同盟国に確約するためにも、核計画に関するプロセスに最初から同盟国を参加させ、危機管理に関する演習を増やし、シミュレーションにも同盟国の指導者を招くべきだと提案した。特に、アジアでは日本、オーストラリア、韓国との間で、米国の核戦力に関する協議の場を設けるよう求めた。米国からこのような誘いがあった場合、岸田首相はどう答えるのか。

 ●核シェルターも整備を
 広島選出の岸田首相は「唯一の被爆国」を繰り返すが、日本では核攻撃から国民を守るための核シェルターの整備はほとんど進んでいない。米軍による広島への原爆投下の際、爆心地から500メートルでも校舎地下にいて助かった児童がいた。岸田首相こそ国民を保護する核シェルターの整備などに率先して取り組むべきではないか。
 「備えあれば憂いなし」と言う。核共有の議論さえ封じるような日本の国会議員は、同じ敗戦国ながら国防力の大幅強化に踏み切ったドイツを見習うべきだろう。核の問題は一部の専門家だけに任せていい話ではない。岸田首相はいまこそ国民世論を喚起し、「非核三原則」を見直して、核による抑止力の強化を図るべきだ。(了)
 

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