10月初め、中国が多数の軍用機を台湾近くに飛来させた。台湾海峡の平和と安定を損ねる中国の行動に対し、日本政府は反応が鈍く、毅然とした態度を取らなかった。これでは、「中国に対して主張すべきは主張する」(所信表明演説)という岸田文雄首相の言葉がうつろに響く。岸田新政権の中国外交は先が思いやられる。
●驚くべき日米の反応の違い
台湾南西の防空識別圏には、10月1日に38機、2日に39機、4日に56機の中国軍機が侵入し、台湾国防省が昨年9月にデータ公表を始めて以降の1日当たりの侵入記録を連続して更新した。同時期に日米英など6カ国海軍が沖縄南西海域と南シナ海で実施した大規模演習に対抗する動きのようだ。防空識別圏は領空侵犯をする可能性のある外国機を監視するために各国が独自に設定する空域で、領空より広い。
緊張が高まる中、台湾の国防相は6日、「中国は2025年までに台湾に侵攻できる能力を完備する」と危機感をあらわにした。蔡英文総統は米外交誌に寄稿し、台湾が中国の手に落ちれば「破滅的結果」を招くと警告した。
米政府が迅速に反応したのは当然だ。ホワイトハウスのサキ報道官は4日、「台湾付近での中国の挑発的な軍事行動は地域の平和と安定を損ねるもので、懸念している。台湾に対する軍事的、外交的、経済的な圧力と強要をやめるよう中国に強く求める」と言明した。
続いて米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは8日、米軍の特殊部隊と海兵隊が台湾軍をひそかに訓練していると報じた。米当局者がこれをリークしたのは、中国に対する明らかな牽制である。
ところが岸田政権には緊張感が欠落している。何と松野博一官房長官は5日の記者会見で、「(中国軍機の)動向は承知しているが、こうした動きの一つ一つについてコメントすることは差し控える」と述べたのだ。その上で、「わが国としては、台湾をめぐる問題が当事者間の対話により平和的に解決されることを期待する、というのが一貫した立場だ。引き続き関連動向を注視していきたい」と語った。台湾情勢は日本の安全保障に直結するという意識のかけらもなく、日本が台湾海峡危機の部外者であるかのような発言には驚くばかりだ。
●中国軍機が損ねる平和と安定
日本政府は、菅義偉前首相とバイデン大統領による4月の日米首脳共同声明で、台湾海峡の平和と安定の重要性を確認したばかりではないか。中国軍機によってその平和と安定が損なわれる事態に直面して、政府のこのような公式見解はいったい何なのか。
岸田首相の8日の国会での所信表明演説に「台湾」は出てこなかった。同日の習近平中国国家主席との初の電話会談で、岸田首相が問題を提起したと自ら記者団に語ったのは尖閣、香港、新疆ウイグルの三つだ。同席者によると、首相は台湾問題にも触れたというが、本人の口から説明がなかったのは、首相にとって台湾の優先順位は高くないためと見られても仕方ないだろう。中国は、日本が台湾問題で対決姿勢を取る気はないと思うのではないか。(了)