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冨山泰

【第846回】日本は極超音速ミサイルの脅威に目覚めよ

冨山泰 / 2021.11.08 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 米国防総省が11月3日発表の報告書で明らかにした中国の軍事力のうち、日本の安全保障にとりわけ重大な影響を及ぼすのは、現在のミサイル防衛システムで迎撃できない極超音速ミサイルが日本本土を射程内に収める形で配備されたことである。日本は、核搭載可能なこの新型ミサイルの脅威に目覚め、速やかに対策を講じねばならない。

 ●中国が台湾対岸にDF17配備
 問題のミサイルは、音速の5倍以上で大気圏内を飛ぶ極超音速滑空体(HGV)を弾頭とする東風(DF)17で、2020年に実戦配備が始まった。国防総省の報告書は配備場所を特定していないが、昨年10月の香港紙報道によると、台湾海峡に面した中国の福建省と浙江省で配備が始まり、台湾を標的にしてきた旧型の短距離弾道ミサイルを徐々に置き換えている。同報告書はこの報道を実質的に確認した。DF17は射程1500キロの準中距離ミサイルなので、中国の台湾対岸から発射されれば、沖縄の米軍基地はもとより西日本全体に届く。
 中国は今年8月、開発中の別の極超音速ミサイルを地球周回軌道にいったん乗せ、宇宙から地上を奇襲する実験を行ったことが分かり、米軍首脳を震撼しんかんさせた。
 日本が現有する弾道ミサイル防衛システムは、飛来するミサイルが大気圏外を飛行中に、あるいは大気圏に再突入して標的に当たるまでの間に、迎撃する。しかし、DF17は大気圏内を飛行するし、弾頭は投げた石が水面をジャンプするように「跳躍滑空」をするので、迎撃が難しい。さらに、DF17の発射台は道路移動式なので発射場所を事前に予測できず、たとえ日本が敵基地攻撃能力を持っても、発射を阻止するのは困難だ。
 日本に防御手段のないDF17を台湾対岸に配備したのは、中国軍の台湾侵攻の際に、米軍や自衛隊が日本国内の基地を使って介入するのを防ぐのが主な狙いとみられる。国防総省報告書は、DF17の主目的が「西太平洋の外国軍基地と艦隊への攻撃」にあるとの在中国軍事専門家の見方を紹介した。標的が基地であっても、飛行経路が少しずれれば基地周辺の人口密集地に着弾する。

 ●先人の知恵に学ぼう
 DF17を現有のミサイル防衛システムで迎撃できず、敵基地攻撃能力を保有しても阻止できないとすれば、日本はどうすべきなのか。極超音速ミサイルに対する防衛技術が実用化されるのをのんびり待ってはいられない。DF17はもう配備されてしまったのだ。
 ここでは先人の知恵と勇気に学ぼう。先人とは、冷戦時代、ソ連が配備した中距離ミサイルSS20と同等の能力を持つミサイルを西欧にも配備し、同時にソ連と軍縮交渉に入るという北大西洋条約機構(NATO)の「二重決定」を主導して、結果として中距離ミサイルの相互全廃につなげたヘルムート・シュミット元西独首相である。
 シュミット氏が身を切る思いで旧西独へのミサイル配備を受け入れる決断をしたように、日本の政治家もDF17の配備開始に強い危機意識を持たねばならない。日本国内への中距離ミサイル配備受け入れや憲法改正が不可避の状況に我が国は追い詰められたと思う。(了)