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冨山泰

【第1056回】空約束なら信用失う対ウクライナ武器供与

冨山泰 / 2023.07.18 (火)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 北大西洋条約機構(NATO)に対する岸田文雄首相の入れ込みようが目立つ。リトアニアの首都ビリニュスで先週行われたNATO首脳会議に「パートナー国」日本のリーダーとして参加した岸田首相は、ロシアとの戦争を戦うウクライナがNATO加盟を認められるまでの間、主要7カ国(G7)がそれぞれウクライナに軍事を含む積極的な支援を与えるという内容のG7の共同宣言をG7議長国として発表した。
 国際舞台で岸田首相がこのように目立った役割を引き受けても、日本は国内的制約のため現時点でウクライナへ武器を供与できない。日本の軍事支援が空約束に終わり、国際的信用を失うことにならないか、心配である。

 ●「GDP比2%」は時代遅れ
 NATO首脳会議は、ウクライナの加盟を将来的に認める方針を確認しながら、加盟の時期や条件を明示しなかった。ウクライナの加盟がNATOとロシアの全面戦争を招きかねないことを恐れるバイデン米大統領の意向が反映された。
 NATO加盟前であってもウクライナの安全を保証するため、G7は現代的な武器の提供、ウクライナ軍の訓練、情報の共有などを通じてウクライナに長期的な軍事支援を与えることを約束した。G7のうち日本を除く6カ国はNATOのメンバーでもある。岸田首相はG7を代表して、世界各国に同調を呼び掛けた。
 しかし、おひざ元の日本では、武器輸出の制限緩和をめぐる自民、公明両党の協議がまとまらず、結論を秋以降に先送りしたばかりだ。他国に軍事支援への参加を促しながら、自らは行動しないなら、国際社会にあきれられるだけだ。
 日本がNATOと歩調を合わせようとしているのは、ウクライナ問題だけではない。昨年末に閣議決定した「国家安全保障戦略」で、5年後に防衛費を国内総生産(GDP)の2%に引き上げることを決めたのは、NATOが年来掲げてきた数字を日本も採用したものだ。
 ところが、昨年2月のロシア軍のウクライナ侵攻で、欧州の安全保障環境は劇的に悪化し、ビリニュスでのNATO首脳会議では2%を「最低限」と規定し直し、2%以上の支出が必要になるとの姿勢を明確にした。
 日本も「2%」に自己満足している時ではない。欧州の安全を脅かしているのはロシアだけだが、日本は中国、北朝鮮、ロシア3カ国の核を含む軍事力の脅威にさらされている。日本こそ抑止力強化のため防衛費の一層の上乗せが必要なのだ。

 ●NATOと結束する覚悟
 NATOの東京連絡事務所設置構想も、実現すれば日本とNATOの協力は深まるだろう。この構想はフランスの反対でつぶれたが、日本は乗り気だったようだ。しかし、NATOは加盟国が外部から攻撃されれば他の加盟国が防衛義務を負う厳格な軍事同盟である。その軍事同盟と強く結び付くことの重大性を日本はどこまで自覚しているだろうか。
 ひょっとして岸田首相は、NATOとの連携強化をてこに日本国民の国防意識をさらに高め、自民党総裁として1期目の任期が終わる来年9月までに憲法改正の国民投票を実施する決意を固めているのだろうか。首相は思いの外したたかな政治家かもしれない。(了)
 
 

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