中国の習近平国家主席が、新興国グループのBRICSサミット(7月6~7日、リオデジャネイロ)を欠席したことから、いろいろな憶測を呼んでいる。習主席が中国主導の組織とも言えるBRICSサミットを欠席したのは初めてであり、一部では、習主席に深刻な健康問題が起きているとか、党内権力闘争が激化して北京を離れられない状況であるといった報道がなされている。
●習氏健康不安や権力闘争の憶測
健康不安説では、6月16日、カザフスタンで開催された第2回中国・中央アジアサミットに出席した習主席に対し、カザフのトカエフ大統領が「習氏の健康と家族の幸せ、そして国を治める上でのさらなる成功を祈る」と挨拶したことが注目された。ジャーナリストの福島香織氏によると、トカエフ大統領が習主席の健康に触れたことをカザフの通信社が伝えたものの、中国の国営新華社通信は報じなかった。この流れから、習主席の健康に関する言及が中国公式メディアでタブーになっている可能性があるとの憶測が流れた。
党内権力闘争については、6月30日の台湾紙自由時報が報じた。習主席が抜擢して中央軍事委員会入りさせた同委副主席の何衛東氏、同委委員の苗華氏が失脚した背景に、軍部内暗闘の可能性があるという。習氏はこの2人を前面に出して軍部実力者である張又侠氏(同委副主席)と側近を粛清しようとしたが、かえって自身の側近を失脚させられて、軍の掌握に失敗したとされている。
●失脚を否定する見解
一方、筑波大学名誉教授の遠藤誉氏は、習主席がBRICSサミットを欠席したのは、それ以上に重要な行事があったためと指摘している。「今年は抗日戦争勝利80周年であることから、習近平国家主席としては抗日戦争に関わる行事を最優先として動いている」とし、盧溝橋事件の日である7月7日、習氏は山西省陽泉市で抗日戦争の殉職者に献花し、百団大戦記念館を参観していたことを、中国中央テレビ(CCTV)が報道した事実を挙げている。
加えて、元産経新聞台北支局長の矢板明夫氏は「元指導者の華国鋒氏や胡耀邦氏が失脚した際には、新華社の報道に大きな変化があり、また人事異動も大規模なものとなっていた。今回はそのような兆候は見られない」と述べ、習主席失脚説に否定的だ。
国家基本問題研究所が分析している中国人民解放軍の演習においては、習主席の指示どおりに2027年までに台湾に侵攻できる軍事態勢の確立へ向けて着実かつ実戦に即した訓練を積み重ねている。軍がクーデターを起こすような状況にはないと見ていいだろう。
ここは、しばらく冷静に中国の政治動向を注視した方がよさそうだ。(了)