これを「媚中」と言わずして何と言おうか。日本産牛肉の対中輸出再開に向けた自民党の森山裕幹事長の対応である。日中友好議員連盟会長を務める森山氏は、来日した中国の何立峰副首相と7月11日に大阪市内で会談した。何副首相が中国国内手続きの完了を伝えたのを受け、日本政府は日本産牛肉の対中輸出再開に必要となる「日中動物衛生検疫協定」が発効したと発表した。
森山氏は大阪市内での参院選候補の応援演説で「長年の懸案であった牛肉の輸出問題で前進をみることができた。24年ぶりに輸出が始まるだろう」と強調した。森山氏の地元鹿児島県は和牛の飼育頭数も多く、海外への輸出も伸びている。森山氏はこの「成果」を激戦が続いている鹿児島選挙区などでの勝利につなげたいとみられる。
中国は日本でのBSE(牛海綿状脳症)発生に伴い、2001年から輸入を停止した。日中両政府は19年にBSEなど国境を越えた動物の病気の管理を厳しくする協定に署名したが、中国側が協定の国内手続きを進めず、宙ぶらりんの状態になっていた。中国が今回、日本産牛肉の輸入を認めたのは、参院選真っ最中の日本側に恩を売るためであることは明白だ。
●日米間にくさび
日米間にくさびを打ち込もうとする狙いも透けて見える。日本産牛肉の対中輸出再開に先立って、中国は東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出を受けて2023年8月から禁輸していた日本産水産物についても、6月末に輸入再開を発表した。
トランプ米大統領が7月7日、石破茂首相宛の書簡を送り、日本からの輸入品に対して8月1日から25%の関税を課すと通知すると、石破首相は「なめられてたまるか」と憤慨するなど日米間にはすきま風が吹いている。中国側としてみれば、恩を売るのに森山氏ほどふさわしい人物はいない。自民党ナンバー2で、時に石破首相以上に力を持つ森山氏の「政治力」を使って、政府・与党内の対中強硬派を押さえつけてほしいとの期待もあるのだろう。
●威圧行動も
中国は友好的な言葉だけでなく、威圧的な行動もとっている。7月9、10の両日、中国軍のJH7戦闘爆撃機が航空自衛隊のYS11EB電子測定機に異常接近をした。6月には東シナ海の日中中間線の中国側海域で、中国が構造物1基を設けている動きが確認された。
中国当局は2023年3月にアステラス製薬の日本人社員を拘束したままだ。7月16日に判決が出るが、起訴内容も明らかにされていない。中国で2014年に反スパイ法が施行されたのを受け、17人の日本人がスパイ行為に関わったとして拘束され、11人に実刑判決が言い渡された。森山氏は何副首相に日本人の解放を要求し、中国軍の動きに抗議したとは伝わってこない。米側からすれば、石破政権は中国に擦り寄っていると映るであろう。有権者は参院選で投票するうえで「中国問題」も考慮に入れるべきだ。(了)