公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第833回】次期首相はクアッドの一層の進化を図れ

冨山泰 / 2021.09.27 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 インド太平洋地域の主要な民主主義国による安全保障協力の枠組み「クアッド」(日米豪印4カ国で構成)が初の対面による首脳会議を24日ワシントンで開いた。専制国家・中国への対抗を念頭に置きつつ、新型コロナウイルスや気候変動といった非軍事的な脅威への対応、新興技術の育成を含む経済安全保障、開発途上国のインフラ整備などが今後、クアッドの協力の柱となる方向性が共同声明で打ち出された。クアッドの戦略的意味に日本の政治家の関心が薄いことが気になる。

 ●非軍事協力が中心に
 クアッドの進化という視点で見ると、今回の首脳会議では二つの注目すべき成果があった。一つは首脳会議の年次開催で合意したことだ。外相会議だけでなく首脳会議もこれから毎年開かれることで、クアッドは確立された多国間機構としての道を歩む。
 もう一つは、今年3月のオンライン首脳会議で合意した開発途上国向けのコロナワクチンの製造と配布に関する協力だけでなく、非軍事的な分野でさまざまな具体的な協力政策が発表されたことだ。その多くは中国を強く意識した内容だ。例えば、開発途上国のインフラ整備は、先進7カ国(G7)の「ビルド・バック・ベター・ワールド」(B3W)計画と歩調を合わせ、中国の「一帯一路」構想に対抗する。
 中国の「ワクチン外交」の向こうを張るクアッドのワクチン協力は、ワクチン製造国インドの爆発的なコロナ拡大がようやく下火になり、中断していた途上国への輸出が10月に再開される。
 クアッドは非軍事的な協力が中心になりそうだといっても、日米豪印4カ国は昨年11月に続いて、今年8~9月にも合同海軍演習「マラバール」を実施し、その中で対潜水艦戦の訓練も行っており、大津波などの際の人道支援・災害救援のみを目的にした演習ではない。首脳会議の共同声明は、前回同様、「東シナ海、南シナ海などにおけるルールに基づく海洋秩序への挑戦に立ち向かう」とうたっている。
 ただし、クアッド首脳会議の直前、米英豪の3カ国は米英の原子力潜水艦技術を豪州に提供する新たな安全保障の枠組み「オーカス」(AUKUS)の創設を発表した。軍事協力はオーカスが主体となり、クアッドの軍事的役割は限定的なものになるかもしれない。

 ●中国主導秩序を阻止へ
 たとえ非軍事的協力が中心であっても、中国による国際秩序再編を阻止する民主主義国の機構として、クアッドの重要性は揺らがない。クアッドも、クアッドが原動力となって実現を目指す「自由で開かれたインド太平洋」も、安倍晋三前首相の発想だ。菅義偉首相は基本的に安倍外交を継承したが、菅氏の後継首相を決める自民党総裁選挙で、クアッドやインド太平洋戦略に関する議論がほとんど交わされなかったのは残念だ。
 クアッドが多国間機構として首脳会議を毎年開催するまでに進化し、中国を牽制する枠組みとして確立されてきた以上、その生みの親である日本の次の首相にはクアッドをさらに発展させる国際的な責任がある。(了)