公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第970回】一般献花者の思いを伝えないマスコミ

冨山泰 / 2022.10.03 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 9月27日の安倍晋三元首相の国葬で、一般献花の列に並んだ。国葬会場の東京・日本武道館近くの公園に設けられた献花台にたどり着くまでに3時間、その前に献花台への最寄り駅とされた地下鉄駅前の花屋さんで花を買うのに1時間半、花を買ってから列の最後尾に着くまでに20分かかり、実際に献花できるまで合計5時間の長い道のりだった。
 参列者は普段着から喪服姿まで服装はさまざまだったが、皆、手に花束を提げていた。ある年配の婦人は、自宅の庭から摘んできたのか、包装されていない小さな花束を握りしめていた。こうした庶民が、国のためにあれだけの仕事をし、なお志半ばにして非業の死を遂げた安倍さんを悼み、秋とはいえ30度近い暑さの中を、延々と続く迂回ルートに従い、黙々と歩を進めた。
 参列者は全国各地から集まり、近くにいた中年の男性は、安倍氏が暗殺される前日に遊説した岡山から来たと言っていた。

 ●反対デモの報道に力点
 強い違和感を抱いたのは、国葬当日の模様を伝えた多くのマスコミの報道ぶりである。例えば翌朝のNHKのテレビニュースは、献花者が長蛇の列をつくったことを簡単に報じた後、すぐに画面を国葬反対デモに切り替え、国会前のデモ参加者が1万5000人だったという字幕を付けた。この時点で判明していた一般献花者の数は政府発表によると2万3000人(最終的には2万5889人)で、反対デモ参加者よりはるかに多かったことには触れない。
 そもそもデモ参加者1万5000人という数字は主催者の一方的な発表だ。多くの新聞や通信社もこの数字を使ったが、主催者発表が水増しされているのは常識である。「主催者発表」との注釈を付け、信ぴょう性の責任を主催者に押し付けつつ、数字を垂れ流すのはマスコミの怠慢であり、劣化である。国葬反対派の宣伝のお先棒をマスコミが担いでいる。
 NHKの画面は騒々しい国葬反対デモの無秩序な前進を制止しようとして、警官隊がデモ隊ともみ合う姿も映し出した。知らない人が見れば、反政府デモを治安部隊が鎮圧していると思うのではないか。そうした印象操作に近いことを日本の公共放送が行っている。

 ●反政府運動を扇動する政治家
 国葬反対派の国会前集会では、志位和夫共産党委員長、福島瑞穂社民党党首ら野党代表が「安倍政治は戦後最悪だった」などと反対派を扇動した。葬儀の日に故人を貶めることは人の道に反する。国葬実施について政府は説明不足だったと批判されるが、安倍氏の業績を認めない反対派はどんなに説明しても聞き入れないだろう。
 一般献花台に近い地下鉄九段下駅では、反対派の一部が構内に入り込んでビラ配りをし、献花を終えた参列者と一触即発の険悪な空気になった。反政府運動をあおる政治家と、それに加担するマスコミのせいで国論の分断が進み、いずれ暴力沙汰に発展しないかと憂える。(了)
 
 

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