米民主党大統領候補に指名されることが確実なバイデン前副大統領の陣営が対中政策で、トランプ政権とどちらが強硬かを競っている。トランプ政権が中国との関与政策は失敗だったと断じ、中国共産党体制そのものが諸悪の根源であるとして、米中対立をイデオロギーの次元まで高めたのに対して、バイデン陣営は関与政策に未練を残し、体制批判にまで踏み込んでいない。11月の大統領選の結果によっては、米国の対中政策の基調に逆戻りがあり得ることを知っておく必要があるだろう。
「脅威」ではなく「挑戦」と表現
米民主党の対中姿勢が硬化しているのは事実である。例えば、米議会は香港の自治剥奪やウイグル人の強制収容をめぐり、対中制裁法案を共和、民主両党の全会一致で可決している。バイデン氏自身も、ウイグル人迫害で習近平中国国家主席を「悪党」と呼んだし、香港の自由抑圧で米国民に危害が及ぶなら中国に経済制裁を科すと表明した。従って、バイデン政権が誕生しても、中国に批判的な政策はある程度継承されるだろう。
しかし、バイデン外交の中核を担うと見られる側近の発言からは、最近のポンペオ国務長官演説のように、中国共産党を不倶戴天の敵と見なすような激烈さはうかがえない。典型的な例は、バイデン陣営の外交顧問団のトップに位置するブリンケン元国務副長官である。ブリンケン氏は、バイデン氏の上院議員時代から上院外交委員会のスタッフ主任としてバイデン氏を支え、オバマ政権ではバイデン副大統領の補佐官(国家安全保障担当)や国務副長官を歴任した。次にバイデン政権ができれば、国務長官か大統領補佐官(同)の有力候補と見られている。
そのブリンケン氏は7月9日、ハドソン研究所のミード特別研究員との対談で、中国とは「競争と協力」の関係にあるという米国の外交エスタブリッシュメント(本流)の伝統的な考え方を披歴した。中国とは関与政策を続け、気候変動問題、ウイルス感染症対策、兵器拡散防止など米中の利益が重なる分野で協力できるというのだ。また、ポンペオ長官が中国の行動を米国への「脅威」と明言したのに対し、ブリンケン氏は「挑戦」という遠慮がちな表現を相変わらず使っている。
中国共産党批判には踏み込まず
トランプ政権は6月24日のオブライエン大統領補佐官(国家安全保障保障担当)を皮切りに、7月23日のポンペオ長官まで閣僚級4高官が1カ月間、中国共産党批判に焦点を絞る演説を立て続けに行った。それと同時期に行われたブリンケン氏の発言は、トランプ政権の対中姿勢との差が歴然としている。
バイデン陣営の外交顧問の中で、副大統領候補の下馬評に上ったスーザン・ライス氏はオバマ政権の大統領補佐官(同)在任中の2013年に、習近平中国国家主席の提唱する「新型大国関係」を実行に移したい(we seek to operationalize a new model of major power relations)と発言し、米中による世界分割を容認したかのように受け取られた。しかし、過去に誰が何を語ったか、というのはあまり問題にしたくない。近年、中国の行動はますます攻撃的になり、中国に対する見方も変わっているかもしれないからだ。より重要なのは、現時点でバイデン陣営が中国共産党をどう見ているかである。