公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.08.04 (火) 印刷する

米ソ冷戦時と重なる南シナ海の現状 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 冷戦の再来と言われる。米ソの軍事的対立状況を回顧することにより、米中軍事対立の今後を予測することは意義あることではないか。

当時のソ連は全面戦争時、米国に対する第二核報復能力を維持する為、オホーツク海を聖域化して、ここに戦略核ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)を潜伏させて米本土への報復核攻撃能力を維持することに務めた。

今日、南西諸島列島線は日本の領土であり、かつ東シナ海は水深が浅くSSBNを潜ませるのが難しい為、中国は南シナ海を自国の海にして海南島にSSBN基地を設けて展開させている。この状況は、旧ソ連がオホーツク海を聖域化したやり方と全く同じである。

米ソ冷戦終結直前の1988年10月、青森県大湊を母港とする護衛艦「ゆうぐも」の艦長として、オホーツク海でのソ連海軍大演習を観察した際、潜水艦が弾道ミサイルを発射して空が赤く染まるのを目撃した。この当時の状況をつぶさに目にした者として、現在そして今後の中国戦略を占うことができる。

ポンペオ発言は中国への警告

当時のソ連にとって、千島列島に侵入、あるいは機雷を敷設する米原子力潜水艦、さらには陸の孤島であるペトロパブロフスクを攻撃する米水上戦闘群が脅威だった。この為、当時の大演習でソ連は千島列島沿いに掃海部隊やクリバック級対潜フリゲートと補給艦、攻撃型潜水艦による対潜バリアを千島列島沿いに展開、かつTu-95やTu-142、IL-76と言った対潜哨戒機、偵察機等も多く飛ばしていた。

現在、中国は南シナ海から米本土を射程に収めることができる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)JL-3(射程約12000km)を開発中で、昨年6月にも発射試験を行った。間も無く実用化するというが、既に完成している可能性もある。米国がこれまで立場を明確にして来なかった南シナ海の領有権問題に関して、ポンペオ国務長官が、ここにきて明確に中国の主権を否定する発言を行ったことも偶然ではない。

中国の狙いは、この対米第二核報復力を南シナ海に展開・維持することにあるのは間違いなく、米中軍事対立の本質はここにある。

貢献大きい日本の対潜哨戒力

海上自衛隊は1980年代、対潜哨戒機P-3Cを100機整えることによってソ連潜水艦の動向を察知し、いざという時にはこれを撃沈する態勢を整えることによって、西側が勝利した冷戦の終結に大きく貢献した。

今日も、中国にとって最も嫌なことは自国のSSBNを探知、攻撃される態勢を整えられて自国が締め上げられることだ。日本の努力指向も、ここに集中しなければなるまい。