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2020.08.12 (水) 印刷する

コロナ禍を経済好転に変えるデジタル化 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)

 新型コロナウイルス感染の収束が依然見えない中、4~6月期の国内総生産(GDP)の大幅な減少は避けられない状況である。3期連続のマイナス成長で、リーマン・ショック時を上回る可能性は極めて高い。

戦後最長と期待された景気拡大も、2018年10月をピークに途絶えたことが分かり、戦後最長の「いざなみ景気」(2002年2月∼2008年2月の73カ月間)超えも幻に終わった。既に景気後退局面に入っていたところにコロナショックが加わったことで、経済へのマイナスの影響は一層拡大した。ただ、今回の景気拡大も、経済成長率は平均で年1%台と過去の拡大局面と比較すると勢いは弱く、回復実感は乏しかった。

感染は、必ずワクチンや治療薬の開発とともに終息する。根本的な問題は、近年の日本経済の成長率の低下にある。コロナ後の変化に対応できなければ、日本経済の長期低迷のリスクは高いと言わざるを得ない。

コロナ禍を経済回復の梃に転じられるか否かが、日本経済の再生を左右すると言っても過言ではない。それには、コロナ後に向けて進む経済社会の変化の方向性を見据えて、ヒト・カネを成長分野にシフトさせることが必要である。鍵は「デジタル化」である。

遅れ一気に取り戻す好機

日本では、デジタル技術活用の遅れが、生産性の低さの原因の一つであることが指摘されている。今回の危機を契機に、IT投資の拡大が実現できれば、生産性の向上や人手不足の解消に資することによって、経済の潜在的成長率の引き上げに繋がることも期待できる。

日本のデジタル化のスタートは決して遅くはなかった。日本政府による高度情報通信社会推進に向けた政策は,1994年8月に内閣に高度情報通信社会推進本部を設置したことを嚆矢とする。米国でクリントン大統領が就任し、全米情報基盤、情報スーパーハイウェイ構想を掲げた1993年の1年後である。

しかし、今日、電通イージス・ネットワークとオックスフォード大学の共同調査(2019年)によれば、日本は「デジタル社会指標」では24カ国中22位、「デジタルニーズ充足度」では24カ国中24位。国際比較において、日本はデジタル経済が社会において上手く機能しているとは言い難い。また日本人のデジタルニーズをあまり充足できていない状況も鮮明になっている。コロナウイルス感染という禍を福に転じるべく、四半世紀に及ぶデジタル化の進展の遅れを一気に取り戻す意気込みと実行力が求められる。

人的投資の大幅拡充を

今回、2020年度の設備投資動向調査によると、デジタル投資が15.8%増となったことは今後に期待を持たせるが、これはあくまでも大企業(資本金1億円以上、東証一部上場)の動きであり、デジタル社会の実現には中小企業を含めたデジタル化の実現が必要である。

ITを活用したイノベーションの遅れ、延いては生産性の遅れを引き起こしている要因の一つは、人的投資の大幅な落ち込みである。日本の人材育成投資は、1990 年代前半は約2.5 兆円前後だったものが、年々減り続け、2010年以降は約0.5兆円とピーク時の2割程度に低迷している。欧米諸国と比較しても、GDPに占める人材投資は著しく低い。IT投資は1990 年から一定の規模が維持されていることと比べると、人材投資の減少が目立つ。

『平成30年版労働経済の分析』(厚生労働省)によれば、GDPに占める企業の能力開発費の割合は、2010~2014年では、米国2.08%、フランス1.78%、ドイツ1.20%、イタリア1.09%、英国1.06%に対して、日本は0.10%に留まり、突出して低い水準にあることが分かる。

経済産業省の『DXレポート』(平成30年9月)によると、IT人材不足は2025年には約43万人まで拡大すると予想されている。時間的猶予はない。官民の大胆な取組が期待される。