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2020.08.12 (水) 印刷する

日本は「ファイブアイズ」正式参加目指せ 有元隆志(産経新聞正論調査室長兼月刊「正論」発行人)

 米英など5カ国の諜報機関が機密情報を共有する「ファイブアイズ(5つの目)」への日本参加が現実味を帯びてきた。歓迎すべき動きだが、参加にあわせスパイ防止法の制定と対外情報機関の設置という長年の「宿題」も片付ける必要がある。

第二次世界大戦中のドイツの暗号機エニグマ解読協力を起源とする「ファイブアイズ」は、諜報活動に関する「UKUSA協定」を締結している英米、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国で構成される。通信傍受システム「エシュロン」を共同運用し、メールなどの電子情報収集を行い、機密情報を相互利用している。

ブレア英元首相は産経新聞の電話インタビューで、自由主義諸国が連携して中国の脅威に対抗する必要があるとして、「ファイブアイズ」への日本の参加を「検討すべきだ」と語った。英与党保守党のトゥゲンハート下院外交委員長も7月21日の河野太郎防衛相との電話会談で「(ファイブアイズに)日本を加えてシックスアイズにしたい」と強調した。河野氏はアイデアを「歓迎する」と応じたという。

まずはスパイ防止法の制定を

英国は欧州連合(EU)離脱後の外交・経済戦略「グローバル・ブリテン」の第一歩としてアジア太平洋地域との関係強化を目指している。その一方で中国・武漢発の新型コロナウイルスの感染拡大などを機に、中国への警戒感が一気に高まっている。公安関係者によると、「対中共同戦線の目的もあり数年前から日本はファイブアイズの事実上の加盟国扱いになっている」という。

日本としては、ファイブアイズの協力分野が情報共有だけでなく、希少資源や医療品などの戦略物資にも広がることが課題となっているなかで、正式に加盟する意義は大きい。そのためにもスパイ防止法の制定と、諜報機関の設置に取り組むべきだ。

「スパイ防止法」をめぐっては昭和60(1985)年に自民党有志が議員立法で提出したが、野党の反対もあり廃案となった。安倍晋三政権となって、平成26(2014)年に公務員らの秘密漏洩に厳罰を科す特定秘密保護法が施行された。米国などと安全保障協力に向けた情報共有を進めやすくなったものの、同法はスパイ活動そのものを取り締まる法律ではない。
自民党の有志議員グループ「日本の尊厳と国益を護る会」(護る会)はスパイ防止法の制定を掲げているが、立法化の見通しは立っていない。5カ国との機密情報の共有を円滑にするためにも、スパイ防止法の制定は必要だ。

急がれる対外情報機関の整備

日本には米国の中央情報局(CIA)、英国の秘密情報局(MI6)のような諜報機関がない。「ファイブアイズ」への参加にあたって、内閣情報調査室や公安警察、公安調査庁などを統括する対外情報機関の設置は急務といえる。それぞれの機関が情報を囲い込むのではなく、国益のために大同団結すべきとは言われてきたが、なかなか省庁の壁を取り払うことはできなかった。

官邸直属にするのか、それとも独立組織にするか。インテリジェンス・オフィサー(諜報員)の育成をいかに図り、身分を保護するか。国会による監視と国会議員が情報漏洩した場合の罰則などを、本格的な組織にするためにも解決していかなければならない。

オウム真理教によるサリン事件や北朝鮮による拉致事件の反省が生かされず、諜報機関は設置されることはなかった。21世紀に日本が生き残るためにも、インテリジェンスの機能強化に強い関心のある安倍晋三首相の下で、スパイ防止法と対外情報機関の整備を進め、「シックスアイズ」の一員として存在感を発揮すべきだろう。