公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.08.13 (木) 印刷する

カマラ・ハリス氏の問題点 島田洋一(福井県立大学教授)

 米民主党の大統領候補指名を確実にしているジョー・バイデン前副大統領が、副大統領候補に非白人で女性のカマラ・ハリス上院議員(1964年生)を選んだ。ハリス氏の父はジャマイカ生まれ、母はインド生まれで、先祖を辿ればアフリカと南アジアにルーツを持つ。ただし陣営内に異論もあり、すんなりとは決まったわけではない。

バイデン氏追及の過去も

最大の問題は、ハリス氏が公開の場でバイデン氏に人種偏見があるかのような言いがかりを付けながら、明確に反省ないし謝罪の弁を述べていないことである。「なのになぜ、バイデン氏から和解の手を差し伸べねばならないのか」が不満点としてくすぶっている。

バイデン氏には、黒人一般の感受性や判断力を見下していると疑われかねない失言が多い。つい最近も「黒人社会―顕著な例外はあるが―と違って中南米系社会は非常に多様性のある社会」と発言して釈明に追われたばかりである。

ハリス氏は、第1回民主党大統領候補討論会(2019年6月26日)の場で、フロントランナーのバイデン氏に打撃を与えようと、まさにその人種問題で無理な攻撃を仕掛け、瞬間的に支持率を上げたものの、結果的に自ら墓穴を掘った格好で、早々に大統領レースから脱落した。

ハリス氏が取り上げたのは、1970~80年代に、リベラル・エリートが推進した「強制バス通学」である。白人学生の一部を黒人地区の公立学校へ、黒人学生の一部を白人地区の公立学校へ通わせるもので、ハリス氏は自身が「それを経験した少女」だったと切り出した。

ハリス氏は、バイデン氏がこの政策に消極的で、自分を含む差別される側の痛みに鈍感だったと、怒りに震えるかのような演技を交えて追及し、虚を突かれたバイデン氏は「連邦による強制に反対しただけで、地方レベルの実施には賛成だった」と防戦に追われた。

主張の矛盾突かれ沈黙

しかし、この政策は、当時黒人の間でも評判が悪かった。朝の道路は混雑する。通学に1時間前後掛かる場合も珍しくなく、選別された生徒は親も含めてその分早く起きねばならない。早朝の1時間の差は大きい。近所の幼馴染らと離れた学校生活を送ることにもなる。校内では少数派として疎外感を覚える場面も多い。

この政策を発想し、推進したリベラル・エリートたちは、自らの子弟は、措置の対象外である私立学校に通わせる例も多く、一層、庶民の憤懣を買った。結局、先鋭な対立と大混乱を招いた挙句、廃止に近い修正措置を取る地域が続出する。

討論会の後、ハリス氏はメディアから逆に追及を受けた。「あなたが大統領になったら強制バス通学を復活させるのか」と問われて、「それは手段の一つで大事なのは目的」などと誤魔化していたものの、結局「連邦レベルでやることには反対」と答えざるを得なくなった。要するにバイデン氏の答と同じである。ハリス氏が以後、この話題に触れることはなかった。

感情的にバイデン氏に絡んだことで、「クール・ビューティ」のイメージを自ら壊し、「動じない雰囲気の彼女ならトランプ大統領と堂々とやり合えるのでは」という期待も、大舞台における一世一代の演技がぶざまに破綻したことでしぼんだ。

トランプ氏はいち早く、「彼女はそれほどタフじゃない。簡単につぶせる」と豪語していたが、それを実証した形となった。

外交安保分野は未知数

ハリス氏は検察官出身である。訴訟のプロでありながら、最高裁まで争われ全米を揺るがした「強制バス通学」問題の歴史にうといと見られたことで、法律の専門家としての能力にも疑問符が付いた。共和党はこの辺りを徹底的に突いてくるだろう。

ハリス氏は大統領選に向けて昨年、著書を出した(Kamara Harris, The Truths We Hold, 2019)。その中で、性的マイノリティー(LGBTQ)の権利拡大を何よりの業績と誇るが、外交安保分野についてはほとんど記述がなく、その後の言動に照らしても全くの未知数である。

特に、中国に関して目立った発言がなく、香港、ウイグルに関する数次の制裁法案に何ら積極的に関与していない点は、「今の時期」の副大統領として適性に大きな疑問を感じさせる。

上院議員1期目ながらハリス氏が知名度を上げたのは、何か独自の政策提案によるのではなく、もっぱら人事承認公聴会における追及ぶりが、リベラル・メディアによって盛んに「クールでタフ」と喧伝されたことによる。

しかし中身を見ると、ブレット・カバノー最高裁判事(当時は指名者)に対する根拠が薄い「性暴行疑惑」の追及など、保守派から見れば、思わせ振りで嫌味なものばかりである。超党派で賛辞を贈られるような発言は、これまでのところない。

なお、ハリス氏を含め、現在の民主党の問題点については、8月下旬出版の拙著『3年後に世界は中国を破滅させる』(ビジネス社)で詳述した。参照頂ければ幸いである。