公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.08.14 (金) 印刷する

尖閣沖の中国公船と対峙するには 黒澤聖二(国基研事務局長)

 沖縄県の尖閣諸島周辺で中国海警局の公船4隻が、4月14日から8月2日まで111日間連続で、接続水域内の航行を続けた。これは日本政府が尖閣諸島を国有化して以降最も長い期間だが、その後も数日の間を置きながら航行は続いている。

問題は、わが国の漁船を追尾し、領海内に侵入するなど、明らかに国連海洋法条約ですべての外国船舶に認められる無害通航の範囲を逸脱していることだ。このような行為を繰り返す中国海警局の公船とは、国際法上いかなる船舶に分類されるのか。若干の解説を加えながら、わが国の対応について考えてみたい。

公船の主権免除には例外も

公船について国連海洋法条約第96条は、軍艦ではないが「国が所有し又は運航する船舶で政府の非商業的役務にのみ使用される」船舶と位置づけ、公海上、完全なる免除が与えられると規定している。

この規定は、外国の沿岸警備隊やわが国の海上保安庁に類する組織に属して公務を執行する船舶、いわゆる公船の公海上の権利を確認したものである。したがって、海上における法執行を任務とする中国海警局の公船も、わが国海上保安庁の巡視船も、同様の規定が適用される船舶に該当する。

前述のように平時の公船は、公海上において旗国以外のいずれの国の管轄権からも完全に免除される。外国の領海においても、その範囲や程度については軍艦ほど明瞭ではないとの学説もあるが、一般には軍艦同様の免除(主権免除、または治外法権)を有するとされる。

だからといって、何でも無罪放免ということにはならない。海洋法は、領海内の全ての外国船舶に、沿岸国の平和、秩序または安全を害しないことを要求し(第19条)、公船には発生した損害に対する責任があると規定する(第31条)。

やや年代は古いが、公船の主権免除の例外として特異な事例がある。

昭和28年8月8日、ソ連の漁業巡回船「ラズエズノイ」号が、ソ連の工作員を迎えに北海道の海岸に接近した際、待ち構えていた海上保安庁の巡視船と撃ち合いになり、船長以下5名が逮捕されるという事件が発生した(クリコフ船長事件)。

船長と工作員は旭川地方裁判所で懲役刑の有罪判決を受け、その後、強制送還されたが、ソ連の公船が、わが国の出入国管理令(当時)違反で処罰された珍しいケースであり、ソ連政府が後に陳謝する事態となった。

つまり当時は、主権免除の観点から当該処罰に異論もあったが、責任の所在がソ連側にあることが明確になった事例として一定の評価は可能だ。

戦時に戦えぬ海保の限界

次に戦時の海上に適用される法、すなわち海戦法における公船の位置づけについて取り上げてみたい。

海戦法は陸戦法とは異なり、現代でもそのほとんどが慣習法のまま明文化されてこなかった。そのため、国際法の専門家が法典化のための研究を重ね、その成果として人道法国際研究所が『サンレモマニュアル』を編纂、出版し、多数の国の海軍が、国際法解説書(軍のマニュアル等)に法的根拠として引用している。したがって、海戦法においては国によってその解釈に違いはあるものの、サンレモマニュアルが一つの法的根拠となりつつあることを紹介しておきたい。

そのサンレモマニュアルによると、公船は軍隊が排他的にコントロールしている場合は補助船舶に分類され、交戦権を持つと同時に発見次第、攻撃可能な軍事目標となる。排他的なコントロールが及ばない場合は、それ自体で軍事目標となるのか必ずしも明瞭ではないため、商船として扱う必要がある。

わが国海上保安庁は、平時戦時を問わず、海上保安庁法第25条により明確に軍隊としての機能を否定している。すなわち、外形上は準軍事組織の体裁だが、国内法上は国土交通省に所属する非軍事組織であり、その船舶は海軍の補助船舶とは異なり、交戦権を有しない。

ちなみに、米国の沿岸警備隊は国土安全保障省の隷下にある警察機関であるが、戦時には海軍長官の指揮下に入る。また英国では海軍が警察権を含むすべての領域警備の任務を持つなど、国により海上警備を司る主体が異なる。しかし、いずれも戦時には交戦権を有することが、わが国とは異なる点だろう。

海自・海保の協力強化を

中国海警局の公船は、2018年の組織改編により、人民解放軍を束ねる中央軍事委員会の指揮下にある武装警察(武警)部隊の隷下となり、指揮系統が軍と統合された。つまり中国海警局の公船は、平時から軍事組織の一部として領海警備を実施するが、当然戦時には海戦法上の補助船舶として交戦権を有し、海軍を補完する極めて軍艦に近い存在だと言える。

実際、中国は6月20日、全人代常務委員会で人民武装警察法を改正し、戦時は武警の指揮下、軍と海警局の船が一体で動き、軍事作戦にも参加できるように法的な整備を行った。

平時も軍との共同訓練などを行い、平時と戦時の境目無く円滑に対応できる仕組みとした。早速、7月5日、南シナ海のパラセル(中国名、西沙)諸島周辺で海警局と海軍との合同訓練が行われた模様だ。

このように中国海警局は、まさに第2海軍としての役割を担うべく法的基盤を整備し、人民解放軍海軍との融合を深化させている。規模でも武装面でも既にわが国海上保安庁を遥かに凌駕し、中には76ミリ砲という通常軍艦が装備する武器を搭載した公船も就役している。これはつまり、法執行活動より軍事目的に重きを置いた装備と見るのが妥当だろう。

海上保安庁が東シナ海で対峙する相手は、もはや公船というより、白い塗装に身を包んだ軍艦だと言っても過言ではない。現場で顕在化するこの非対称性に応じるには、法的には海上保安庁法第25条の足枷を取り払い、海上自衛隊と平時、戦時に関わらず緊密な協力体制を構築するとともに、巡視船艇を大幅に増強することが必要だ。